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第五章 絆と力③

試験が終わり、クラスの雰囲気も一変して、浮き足立ったムードが漂っている。

それもそうかもしれない、もう数週間で夏の長期休暇にはいるのだ。

いつも勉学に縛られた生徒たちにとってこれほど嬉しいことはない。


「ねぇ、夏休み。どっか行こうよー」


いつものようにテラスで食事をしているとリルムがそんなことを言ってきた。


「海だよね。夏はやっぱり!」


リルムは妄想をふくらませて、ああだ、こうだ。プランを上げていく。


「まだまだ先だろ。夏休みなんて」


俺が釘を刺すと、リルムは人差し指を立てて

「あま~い! ロイちゃん。甘・あまだよ。

 そう言って何度行き損ねたか。今年こそ旅に行くんだよ」

とか言ってきた。


「今年は気合入ってますね」

「うん。ロイが帰ってきたからじゃないかなぁ」


 クーナとクライスはヒソヒソと話す。


「海か…………」


当然、海と言えば海水浴…………

海辺で、はしゃぐリルムの姿を想像してしまう。


「うん。悪くない」

「お兄ちゃん。なんか変なこと考えてなかった?」


 クーナは曇りなき目で俺のことを見つめてくる。


「気のせいだ」


そう言い俺は目を思いっきり逸らした。

邪心をもつ兄を許してくれ。妹よ…………


「でも、海だったら、水着とか用意しないと……ブツブツ」


クーナは何か想像してぶつぶつと言っている。


「クライスはどこか行きたい所はないのか?」

「うーん。僕はどこでもいいかな」


相変わらず欲のないやつだな。まあいいけど。


「じゃあ海に行くことに決定だね!」


リルムは立ち上がりガッツポーズをとる。

目的が決まったことで俺たち具体的なことを決めていく。

リルムが提案するプランはめちゃくちゃで、俺はその計画を頭から否定していった。

結局、クーナとクライスが考えてくれたプランが妥当ってことになり、

俺たちはおおざっぱに計画を立てた。



そして放課後、俺はリルムに連れられて市街地へと来ていた。

今日はクーナとは別行動。なんでも友達から遊びへの誘いがあったらしい。


「あたしとデートできて、うれしいでしょ? ロイちゃん」


リルムは楽しげな笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。


「デートてか、無理やり付き合わされてる、感じだけどな」


リルムは俺の手を取り、ある店の前で止まった。


「ここに用があったの!」


そこは女性専門の服屋。


「あたしの水着どんなのがいいかなぁー?」

「まさか、俺にここに入れと?」


外装からしていかにも女性的な店を見て、俺は入るのをためらう。

しかも水着を選べとか…………


「ほらっ! 入ろう!」


ほぼ無理やり、俺を店の中に入れるリルム。

拒んだら後が怖いし、俺は腹をくくって、店に入る。


女性用のショップということもあって、中は女性服ばっかりだ。

最新のファッションから、マニアックなコスプレまがいの服までおいてある。


「ここにはクーちゃんとよく来るんだー」


店の一角の水着コーナーの前でリルムはそんなことを言う。


「じゃあ、クーナとくればよかったんじゃないか?」


女同士の方が、服の選び合いとかできて楽しいのではないのだろうか? 

俺は服選びのセンスになんて自信がないわけであるし。


「う~ん。でもクーちゃんがロイちゃんの趣味知りたがって――――あっ!」

「えっ?」

「ロイちゃん。これどうかな!」


リルムは突然そこにあった水着を俺の顔の前に持ってきた。

彼女が持って来たのは黒のビキニ。


「おいおい刺激的過ぎないか?」


ぶっちゃけ、リルムならば何の服装でも似合いそうだが、

さすがに露出の激しい奴は止めてほしい。


それからリルムは俺の反応を見定めるかのように

色々なタイプの水着を俺に見せてきた。

悔しいが俺はドキドキしっぱなしだった。

リルムが水着を手に取るたびに水着姿の彼女の姿を想像してしまう。


「ロイちゃん。どれがいいかはっきり答えてよ!」


とは言っても、俺の趣味だけで選ばれても困るんだけどな…………

結局どれを買うか決まらずに、俺たちは店を出た。


「あーあ。買いそびれちゃった」


リルムはがっかりと肩を落とす。


「まだ時間もあるし、今度来ればいいんじゃないのか?」


本心、俺はもう行きたくない。そんなことを言っていると

今度はクライスが犠牲になりそうなのだが…………


「まあ、お金も持ってきてなかったし。いいか」

「ちょっとまて! それじゃあ決まってたら、どうやって買うつもりだったんだ!」

「そりゃあ、ロイちゃんのオ・ゴ・リ」


そんな悪びれのない笑顔でこっちを見ないでくれよ。

お金がないわけではないが水着を買ってやる義理もない。


「じゃあ、水着買ってもらってないんだから、コーヒーぐらいおごってくれるよね?」


そういうとリルムは小走りで、近くの喫茶店に入っていった。


「はぁ、デートって言うか、財布扱いだな、俺」


俺は力なく、リルムの後を追った。


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