第五章 絆と力②
あっという間にテスト最終日を迎え、俺は最後の試験に臨んでいた。
科目は実践魔法だ。これは俺の得意教科。
この授業だけは誰にも負ける気がしない。
さすがに教室ではできない試験なので、会場はグラウンドだ。
基礎攻撃魔法のテスト、これは詠唱の正確さと早さを見極めるものらしい。
俺たち三人の中で最初に名前が呼ばれたのはクライス。
クライスは手をかざし、目標である案山子のような人形目指して詠唱を始める。
優等生らしく、クライスは正確な詠唱を心掛け、何なく人形に火球をぶつけた。
その様子をみて、教官はバインダーにペンを走らせた。
「ふう、うまくできてよかった」
クライスはホッとした様子でこっちにやってくる。
「クライスちゃん。やるね~。おっ? あたしの番かな?」
自分の名前が呼ばれるとリルムは小走りで走って行く。
リルムは定位置につくと、俺たちの方を見て、ブンブンと手を振ってくる。
「ロイちゃーん、クライスちゃーん。見ててね!」
「馬鹿! あんな大声で、恥ずかしいだろが」
「まあ、リルらしいというか…………」
クライスが控え目に手を振ってやると、満足そうな笑顔を浮かべ、魔法の詠唱を始めた。
「これは……」
その詠唱のパターンを聞いて俺は驚く。
俺の耳がおかしくないのならばこれは二重詠唱という高等技術である。
その名の通り、二つの魔法を詠唱することで、同時発動を可能にするものである。
リルムの手からは二つの火球が生成され、目の前の人形に直撃する。
「どうだ!」
リルムは成功を目にしてガッツポーズをとる。
二重詠唱に驚いた教官であったが
「リルム・ウォースカイ。この試験は基礎攻撃の試験です。
いくら高等技術をしたって点数は与えられませんよ」
「えーっ!」
二重詠唱をしたことで、
リルムの詠唱時間はいつもよりはるかに遅い。
「も、もう一回お願いします!」
「だめです。一人一回という決まりなので」
「そんなー」
リルムは肩を落とし、こちらに向かってくる。
「ううっ……失敗した~」
「馬鹿だな。普通にやればいいのに」
「だって、そんなんじゃ面白くないじゃん!!」
リルムは頬っぺたを膨らまし、俺に食いかかってくる。
「ドンマイ。リルが実践魔法のテストで失敗するなんていつものことじゃない」
クライスは爽やかな笑顔で毒を吐いてくる。
「ぐっ…………ほら、次。ロイちゃんの番だよ!」
そう言って、リルムは俺の背中に蹴りを入れてきた。
「いってぇ……このやろ――」
「ロイ・ウォレンツ! 貴方の番ですよ」
教官が少し、苛立たげに俺の名を叫んでくる。
「クソ、覚えとけよ」
リルムを睨みつけると、俺は定位置につく。
「では、始めてください」
息を整え、詠唱をする。試験ということもあり俺は本気だ。
実戦さながらに気合いを籠める。
その結果、俺は即座に詠唱を完了し、
生成された火球は猛スピードで人形に飛んで行く。
魔法はその詠唱者の魔力によって威力が変化する。
普通の生徒が唱えた場合は焦げ程度にしかならない
下級魔法でも熟練者が唱えればそれなりの威力になる。
火球は人形に当たった瞬間に弾け、爆発音とともに木製のボディを粉々にした。
しばしの静寂…………
俺は自分のしてしまったことを理解した。
教官も含め、生徒たちがポカーンとして俺の方を見ている……
(やっちまった……)
人というものは力がある者に畏怖を感じる。
そうなれば俺の普通の生活も円滑にいかなくなると思い、
力をセーブしてきたのに……しかし、
「うおおおおお! ロイすげぇよ!」
クラスメイト達は俺を称賛してくる。
「今度、俺にも教えてくれー」
とか
「ロイ君ってもっと、できない人だと思っていたのに、見なおしたわ」
とかで俺はいつのまにかクラスメイトに囲まれていた。
俺の心配のし過ぎだったのかもしれないな。ここは戦場ではないのだ。
少し変わっていても受け入れてくれる。そんなみんなの大らかさが温かかった。
生徒をかきわけ、クライスとリルムのもとへと向かう。
「ロイ。さすがだね」
「むむっ……さすがにこれはあたしの負けかな」
こうして俺の最初の試験は終わるのであった。