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第四章 血と戦争③

街に着くと、リルムの家に案内するように言われ、それに従い、俺は歩く。


家に着いた時のリルムの両親の顔は見られたものじゃなかった。

顔をくしゃくしゃにして眠ったリルムに抱きついた。

二人に心配をかけてしまったことを俺は心の中で深く謝った。


そして今度は俺の家へと案内するように彼女は言った。

クーナもばあちゃんもリルムの両親のように俺を迎えてくれた。

黒衣の女性は少し話があるという。それを受け、ばあちゃんは家に招き入れた。


「では自己紹介からだ。私はフラウ。軍の第三部隊指揮官をしている」


指揮官……よく知らないが、その言葉で彼女の権威がはっきりと分かった。

ばあちゃんは自分と俺の自己紹介をする。


「ロイ……リストにあった名前だな」


リスト……これはスカウト候補者の名簿のことを指しているのだろう。


「先ほど、君の実力は見せてもらった。軍が欲しがるのは無理ないな」


彼女はまるで他人事のように言う。

ばあちゃんは彼女の言葉を聞いて、俺が連れて行かれると思い、

慌てて、「行かせない」という意思表示を出す。


「落ち着いて下さい。私はスカウトではありませんので」


そう言って、フラウさんはばあちゃんを制した。


「だが、強制連行もすぐに始まるでしょう」


彼女は軍の状況を詳しく話してくれた。

こんなことを一般市民に話すのはいいのか分からない。


「本当は私も上のやり方には疑問を持ちます」


フラウさんは少しため息をつきそう言った。彼女は戦争を望んでいないのだろう。


「少し話が反れたな。ロイ。何故あの森に入ったのか教えてもらえるか?」


彼女はそう言い、俺に聞こうとした本当の目的を言葉にする。

ばあちゃんの手前で自分の勝手な行動で

リルムを危険にさらしてしまったことを言うのは気が引けたが、

それでも俺は真実を語った。

リルムが軍に連れて行かれること、それを守ろうとしたこと。

ばあちゃんもフラウさんも俺の話を真剣に聞いてくれた。

先ほどまで沈静していた気持ちを思い出し、俺の目がしらも自然と熱くなっていた。


「そうか。友達を守るか…………」


フラウさんは少し考え込むような素振りをして


「どうだろう、君が私の下に来てくれたら、彼女と君の家族を守ると約束しよう」


そんな条件を出してくる。

何故、彼女がそんなことを言い出したのかは分からない。

けれども俺は決心した。


「分かりました」


たった数文字の言葉だがこの言葉に俺は自分のすべての思いを込めた。

戦争で帰って来られないのかもしれない。

しかしこれでリルムやクーナを守れるのだ。


「分かった。リルム嬢と君の家族を守ると約束しよう」


そう言い、出発の時間や詳細を言って、彼女は家を出ていった。

明日の夕方という急な日程だったが、決心した以上、行かなければならない。


その一日で俺はできるだけのことをした。身の周りを整理し、荷物をまとめた。


クーナは俺の様子を見て寂しそうにしていたが、

泣いて俺を止めるなんてことはしなかった。


それからクライスを公園に呼び出した。

俺の話を聞くとクライスは驚いた。だが彼は俺の話を黙って聞いてくれた。


「リルムとクーナを頼む」


俺は彼に二人のことを頼んだ。リルムは俺がいないと何をするか分からない。

クーナもしっかりしているとはいえまだ幼い。だから支えてくれる人が欲しかった。

クライスは頷き、俺と約束をした。


「ロイ。帰ってくるって約束して」

「ああ、約束だ」


俺たちは固い握手をした。


それからリルムの家に行った。彼女の両親の話ではリルムはまだ目覚めてないらしい。

俺は彼女の両親にすべてを話した。

どんな言葉が返ってくるか恐れたが、彼女の両親は俺を抱きしめてくれた。


「リルムの為にありがとう…………」


その言葉はとても温かかった。

リルムの部屋に入ることを許可されて、

俺はリルムのベッドのそばで彼女の寝顔を見ていた。

ここでいつまでもこうしていたかった。でもそんな時間はない。


俺は決めたのだから。


俺は意を決して部屋を後にした。



その日から三年ほど戦地を転々とした。

フラウさんは俺を戦場でも生きていけるように厳しく教育した。

そのおかげで俺は生き残れた。戦地には俺と同じぐらいの子供も居た。

だが彼らは戦地では虫のように命を散らしていく。

そんな中でも俺はこう思い続けた。必ず帰るのだと。


フラウさんの活躍もあり、戦争は次第に鎮静化し、俺たちの国は戦勝国となった。

軍は俺のことをこのまま軍隊に引き入れようとしたが

フラウさんは俺のことを最後まで守ってくれた。

大量のお金と故郷行きの電車チケットを渡すと、


「お前はもう弟子でもなんでもないから好きに生きろ」


そう言ってくれた。

ぶっきらぼうでめちゃくちゃな師匠だったが俺はとても感謝している。


終戦後のごたごたで俺は帰るのに少し時間が掛ってしまった。

だがその期間、家族には手紙を送り転入許可などをしてもらった。

そして俺は帰って来たのだ。故郷へ…………


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