第四章 血と戦争①
父と母が死んだ。その知らせを聞いた日。
その日は雨が降っていた。兵隊の言葉に俺は愕然とする。
〝死”を理解できない歳ではなかった。
しかし、それを受け入れることはできなかった。
クーナは祖母にしがみつき、一日中泣いていた。
彼女の泣き顔を見ていると、耐えられなかった。
両親の出かけた日から、〝必ず帰ってくる〟と何度も言った言葉を思い出す。
その言葉で俺は彼女を裏切ってしまったのだ。
家にいるのも耐えられず、俺は家を飛び出した。別に行くあてなど無い。
ただ、走りたかった。叫びたかった――
雨の中を走り、森の入口で腰を降ろした。走るうちに郊外まで来てしまった。
木の下で腰を下ろす。
膝を抱え、そこで初めて自分が涙を流していることに気がついた。
「あ、ロイちゃんだ」
その声に頭をあげると傘をさした女の子の姿が目に入った。
その子はリルムと言って俺の幼馴染だ。
だがこのころは家が隣というだけで、ほとんど喋ったことはなかった。
「こんなところで何してるの?」
俺が泣いていることを気にせずに、彼女は俺の横に座る。
「…………」
俺は黙った。今は一人で居たかった。
彼女はそんな俺のことを無視して、無邪気にどうでもいいことを話してくる。
俺が答えないのにもかかわらず、彼女は笑顔で話を続けた。
「ねえ、ロイちゃんの家族は?」
その言葉だけに俺は反応した。
「死んだんだ! お父さんも、お母さんも」
俺が怒鳴り散らしたのに、彼女は目を丸くする。
「そっか……ごめんね……」
リルムは一瞬、悲しそうな目をする。だけど次の言葉は俺の予想もしないものであった。
「じゃあ、リルムが家族になってあげる。それなら寂しくないでしょ?」
彼女がどういう本意でその言葉を使ったのかは分からない。
しかし、その響きはどこか暖かい。
「それにロイちゃん。妹いるでしょ? おばあちゃんも」
「うん……」
「だったらこんなところに居て心配掛けてない?」
リルムは立ち上がって、俺の手を取った。
「帰ろっか」
「うん!」
彼女の手を取り立ち上がる。
雨で冷えた手と対照的に彼女の体温はとても温かかった。
それからだろうか。リルムと俺が深く付き合い始めたのは。
クーナもリルムに影響されたのか、徐々に明るさを取り戻していった。