第三章 雨とテストと憂鬱と③
テストもあと三日と近付いたこの日は雨季では珍しい晴天だった。
出かけたいほどのいい天気なのだが、俺にはそんな余裕はない。
リルムに教えてもらってるにしろ、ブランクは一朝一夕で埋まるものではなく、
暇な時間さえあれば、勉強をするしかなかった。
「お兄ちゃん。今日ピクニックで森に行こうと思うんだけど、どう?」
珍しくクーナが俺の部屋に来て、そんな提案をしてきた。
「悪い。勉強があるから……」
正直勉強詰めで気分転換に出かけたいのは山々だが、
ここで遊んでしまえばペースが崩れそうで怖かったのだ。
「そう……」
俺の言葉を聞くとクーナは少しがっかりした顔をしてしまった。
クーナは俺のことを気遣って誘ったんだろうな。
「ごめんな。テスト終わったら、思いっきり遊ぼうな」
「うん!」
クーナは笑顔を見せて俺の部屋を後にした。
さぁて、思いっきり遊ぶためにも、テストを乗り切らなくちゃな。
俺は机に向かい、テキストを開いた。
一時間ほどした後だろうか。事件は起こった。
寮内のスピーカーから放送が入ったのだ。
俺が転入してから初のことだった。
「学園内の森で、危険度Bクラスの魔法生物が脱走しました。
生徒のみなさんは森には近づかないでください。繰り返します――」
(ちょっと待てよ……森!)
(俺は悪寒が走った)
クーナは今、森にいるはずだ。
なんで今なんだよ……
そう思った瞬間に俺は走り、森の方へと向かっていった。
ピクニックって言っていたので、そんなに深く森に入るはずはない。
俺は校舎にほど近い森への道を辿っていった。
入口付近では先生たちが緊張した面持ちで警戒をしていた。
その手には捕獲用の魔法器具が持たれていたが、
みんな萎縮していて魔法生物を怖がってるように見えた。
当然だ、彼らは教師であり、そういう仕事は管轄外なのだから。
少し魔法が使えるからと言って、実戦を味わったことのある人など、
ほとんどいないのだから。
専門のハンターが来て、この事態が無事に収集することを期待しているのだ。
たとえ生徒に多少の危害が加わっても…………
俺はそんな大人たちを余所目に森へと駆け込んだ。
後ろから俺を止める声は聞こえてきたが、追ってくる気配はない。
俺は一人で林道を走っていった。




