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第九十六話 そう決めた男

イルソーレに(かつ)がれたまま俺とビクニ、そしてググは(はこ)ばれていく。


ラルーナも(よこ)(なら)んで一緒(いっしょ)に走っている。


そして、ゆっくりと向かってくるルバートとすれ(ちが)った。


まさかあいつ一人に(まか)せるつもりか?


「ちょっと待ってッ!? このまま逃げるのッ!?」


担がれながら(さけ)んだビクニ。


ルバート一人でクラーケンの相手(あいて)させる気なのかと、イルソーレとラルーナへ引き返すように言い続ける。


俺もビクニに賛成(さんせい)だ。


いくらルバートがイルソーレとラルーナよりも(つよ)いといっても、たかが人間一人で海の怪物(かいぶつ)――クラーケンの相手をできるはずがない。


間違(まちが)いなく死ぬ。


そう思ったが、それでもイルソーレとラルーナは――。


「大丈夫だよ。あとは兄貴(あにき)一人で問題ねえ」


「むしろあたしたちがいたほうが邪魔(じゃま)になっちゃうよぉ」


などと言っている。


そんなに強いのか?


あのキザな男は……?


ビクニは二人が何を言っても(わめ)くばかりだったが、俺は正直(しょうじき)クラーケンを一人で相手できるというルバートの実力(じつりょく)が見たくなっていた。


俺たちとすれ違ったときと変わらずに、ゆっくりとクラーケンへと向かって行くルバート。


そして、ついに無数(むすう)触手(しょくしゅ)がルバートに(ねら)いを(さだ)めた。


だが、それでもルバートは(こし)()びた(けん)を持つことなく、手には先ほど()いていた金属製(きんぞくせい)のフルートが(にぎ)られたまま。


バカか、(ころ)されるぞ。


ラヴィとの約束(やくそく)なのか何なのか知らないが、カッコつけて死ぬなんて馬鹿(ばか)らしいだけだ。


「ルバートッ! 剣を取ってッ!」


ビクニも俺と同じことを思ったのだろう。


ルバートの背中(せなか)に向かって、声を()(しぼ)って叫んだ。


だが、ルバートは――。


心配(しんぱい)してくれてありがとう、ビクニ。しかし、私の剣はすでに(あい)する人に(ささ)げている。その人を抱きしめるまで、私はこの剣をけして使うことはないんだ」


と、俺たちが想像(そうぞう)していた(とお)りのことを、(おだ)やかな口調(くちょう)で言った。


そして、次の瞬間(しゅんかん)――。


狙いを定めていた触手が一斉(いっせい)に動きだし始めた。


イルソーレとラルーナは、これを(おの)暗器(あんき)斬撃(ざんげき)でなんとか応戦(おうせん)していた。


だが、今ルバートが持っているのはフルートのみ。


上下左右(じょうげさゆう)から(おそ)ってくる触手をどうやって対処(たいしょ)するつもりなのか。


まったく見当(けんとう)もつかない。


もしや魔法(まほう)か?


武道家(ぶどうか)(さと)で会ったリムの奴がそうだったし。


この吟遊騎士(ぎんゆうきし)()ばれた男も攻撃(こうげき)魔法でも(とな)えるのか?


だが、俺の予想(よそう)見事(みごと)裏切(うらぎ)られた。


ルバートは無数の触手が向かってくると、握っていた金属製のフルートを一振(ひとふ)り。


すると、(たちま)ちその風圧(ふうあつ)で、襲い掛かって来ていたすべての触手が()き飛ばされていった。


それ攻撃に(いか)ったクラーケンは、その巨体(きょたい)のわりに素早(すばや)く動きだし、あっという()にルバートの目の前に(あらわ)れる。


「ギョォォォッ!」


そして、大きく口を開けて叫び、ルバートの体を飲み()もうとした。


あの(はり)のような()()()くされているクラーケンの口の中に入れられたら、誰であろうと絶対(ぜったい)無事(ぶし)では()まない。


「ルバートさん逃げてッ!」


ビクニが叫ぶ。


だが、ルバートは一歩(いっぽ)もその場から動かない。


ただ向かってくるクラーケンの開いた口が、(ちか)づいて来るのを待っているだけだった。


もう助からないと思った瞬間――。


ガキンッという(はげ)しい金属音が聞こえた。


飲み込まれたかと思われたルバートは、なんとクラーケンの歯をすべて()り、(やつ)の目の前でフルートを()き立てている。


「今すぐ立ち()れクラーケンッ! 言うことを聞くのなら、(いのち)までは取らないッ!」


そこからルバートがそう叫ぶと、クラーケンは大人(おとな)しく(みなと)から海へと引き下がっていった。


それを見てイルソーレが「さすがですッ!」と大声をあげ、ラルーナは両手(りょうて)で小さくパチパチと拍手(はくしゅ)をした。


「すごい……剣を使わない騎士(どう)もあるんだ……」


そして、ビクニはルバートの姿(すがた)を見て、大きく目と口を開けてそう(つぶや)いていた。

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