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第九十話 宿に戻ってからの酒盛り

その後――。


閉店(へいてん)時間(じかん)となり、俺たちを(ふく)めた亜人(あじん)たち全員が店を出た。


「もうぅ~食べられないよぉ~」


だが、ビクニは道で()てしまうくらいフラフラで、とても自分の足で宿(やど)まで帰れる状態(じょうたい)ではなかった。


ググも同じように、たおれているビクニの体にだらしくなく(よこ)たわっている。


「あらら、レモネードにちょっと酒を()しただけだったんだがな」


(あたま)()きながら言うイルソーレ。


どうやらビクニはグラス一杯分(いっぱいぶん)も飲んでいないようだ。


そんなゴニョゴニョと何か言っているビクニを、ラルーナが心配(しんぱい)そうに介抱(かいほう)していた。


(つか)れていたのもあったのだろうが、たったそれだけの(りょう)のアルコールでここまで酩酊(めいてい)するなんて余程(よほど)酒に(よわ)いのだろう。


「なるほど。今後(こんご)ビクニを(だま)らすときに酒は使えるな」


「それは昔話(むかしばなし)でモンスターを(たお)すやり方だよ……」


俺がポロっとそう言うと、ルバートが(かわ)いた笑みを()かべて(あき)れていた。


そして、ルバートは倒れているビクニを背負(せお)い、俺たちが()まる宿屋(やどや)部屋(へや)まで(はこ)んでくれた。


キザなところは気に入らないが、なかなか責任感(せきにんかん)のある(やつ)だ。


本当は愚者(ぐしゃ)大地(だいち)へ行く(ふね)のことを話したかったが、ビクニがこんな()(つぶ)れた状態では無理(むり)なのでやめておく。


「まぁ、明日でいいか。……って、なんでお前らもここにいるんだよ……?」


ルバートはビクニをベットへ寝かすと部屋を出て行った。


だが、イルソーレとラルーナはまだ(のこ)っていて、俺たちに(ことわ)りもなく勝手(かって)酒盛(さかも)りを始めている。


店でもかなり飲んでいそうだったが、まだ飲み足りないのか。


――というか帰れよ。


「そんな(こま)かいことは気にすんなよソニック」


ガハハと豪快(ごうかい)に笑う筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のダークエルフことイルソーレが、酒を飲みながら店で(のこ)った料理(りょうり)を持ってきていて、それを食べ始めた。


その上、()れ馴れしい態度(たいど)で、さも昔からの友人だと言わんばかりに名を()んできた。


おいおい、俺たちはほんの数時間前に知り合ったばかりだろう。


それでいてこの(あつ)かましさはなんだ。


それに(ねむ)る部屋で(にお)いのキツイ物を食べるなよ。


「ごめんねソニック。でも、ビクニにルバートの兄貴(あにき)とラヴィ(ねえ)さんのこと話さなきゃいけないからさ」


俺が二人を(にら)みつけていると、ラルーナは申し訳なさそうな顔をしていた(そのわりに馴れ馴れしく名を呼んでいるが)。


俺はやれやれとため息をついてから、その話を聞くことにした。


ビクニには俺から(つた)えると言って――。


「じゃあ、まずはルバートの兄貴のことから話すね」


弱々(よわよわ)しい声で話を始めるラルーナ。


それを見て思うが、やはり俺の知っている人狼(ワーウルフ)(くら)べると違和感(いわかん)のある女だ。


だが、次々(つぎつぎ)酒瓶(さかびん)(から)にしていく豪快さは、まあ、獣人的(じゅうじんてき)ではあるが。


イルソーレも酒に(つよ)そうだったが、ラルーナはそれ以上(いじょう)だ。


ラルーナは酒をまるで水のように飲んでいる。


店での亜人(あじん)たちの様子(ようす)や今の二人を見ていると、この海の国マリン·クルーシブルの旧市街(きゅうしがい)に住む者たちは、全員酒にに強いのかと思わせた。


国柄(くにがら)ってやつか。


何故俺は話を聞いているという立場なのに、こんなくだらないことを考えているのかと言うと。


ラルーナの話はずっとルバートのことを()めたたえているだけで、なかなか始まらないからだった。


そして、イルソーレはラルーナがルバートを褒める(たび)に、「さすがだろッ!」と連呼(れんこ)し続ける。


こいつらはきっと、こうやって普段(ふだん)から日々(ひび)(おく)っているのだろう。


店でも思ったが、まるで完成(かんせい)された伝統芸能(でんとうげいのう)でも()ているようだった。


俺がいい加減(かげん)(いや)になって来ていると(いや、褒め始めた最初(さいしょ)からもううんざりしていたが)、ビクニの(やつ)が目を()ました。


眠りが(あさ)かったのだろうか。


ベットから体を()こして、置いてあった料理に手を()ばしている。


おいおい、寝起(ねお)きでよくものを口に入れられるな。


ラルーナは尻尾(しっぽ)()って、(うれ)しそうにビクニに飲み物を(わた)していた。


今度(こんど)は酒ではなく水のようで、さすがにその(へん)常識(じょうしき)はあるらしい。


まさかビクニが起きるまでわざと話を始めなかったのではないか?


そんなことを一瞬(いっしゅん)だけ考えたが、すぐに勘違(かんちが)いだと思い、そのことを頭の中から打ち消した。


「じゃあビクニも起きたし、また最初から話すね」


俺は、もう一度(はじ)めからやり(なお)そうとしたラルーナを止めた。


ふざけるなよ。


またルバート賛美(さんび)を聞かされるなんてごめんだ。


俺が止めると、ラルーナとイルソーレは不満(ふまん)そうな顔をしていたが、また同じ話を聞かされるほうの()にもなってもらいたいもんだ。


「そう言うならしょうがない……ホント残念(ざんねん)だけど……」


そしてラルーナは、ようやく俺たちが聞きたかった話を始めた。

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