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第八十五話 国の裏の顔

食事(しょくじ)は出ないと言われたので、空腹(くうふく)だった俺たちは外へ食べに行くことにした。


俺としては何か面倒(めんどう)なことが()こりそうだったので、あまり外を出歩きたくなかった。


だが、ビクニもググもグゥ~と(はら)()らしていたのでしょうがない。


(とく)にビクニは腹が()っていると、極端(きょくたん)不機嫌(ふきげん)になるので(こま)ったもんだ。


まあ、適当(てきとう)に食い物を(あた)えておけば機嫌(きげん)は良くなるので、(あつか)いやすいといえば扱いやすい(やつ)だが。


そして、俺たちは宿屋(やどや)店主(てんしゅ)――(ねこ)獣人(じゅうじん)の女に、近くに食事ができるところはあるかを(たず)ねた。


猫女は、ビクニを見た途端(とたん)にまた尻尾(しっぽ)垂直(すいちょく)に立てて()り始める。


俺は吸血鬼族(きゅうけつきぞく)だ。


だから一応(いちおう)コウモリと同類(どうるい)みたいなものだ。


だから、獣人といえば獣人。


だから、もしかしたら自分で気がついていないだけで、この猫女のように、ビクニの奴に求愛行動(きゅうあいこうどう)をとっているのかもしれない。


……考えるだけで(いや)だな。


そんなことは絶対(ぜったい)にないはずだ。


「この宿の先にあるよ。ちょっと待ってて。今()()きしてもらえるように(かみ)に書くから」


そう言った猫女は、(うれ)しそうにサラサラと紙に文字(もじ)を書いていた。


ひょっとしたら、この宿屋の宿泊客(しゅくはくきゃく)は、その店で食事を安くしてもらえる制度(せいど)でもあるのかもしれない。


だが、この猫女の態度(たいど)を見るに、たぶん気に入った客だけにやっている制度には見えるが。


「お客さんたちは(たび)の人みたいだから、一応(いちおう)この国のことをちょっと話しておくねぇ」


猫女は、少しでもビクニと一緒にいたいのか世間話(せけんばなし)を始めた。


その話によると――。


なんでもこの海の国マリン·クルーシブルは、世界が平和(へいわ)になった後に、愚者(ぐしゃ)大地(だいち)をはじめとする大陸(たいりく)から大量(たいりょう)の亜人たちが(うつ)()んできたそうだ。


元々(もともと)住んでいた海の国の住民(じゅうみん)たちは、そのことで不満(ふまん)(かか)えていた。


だが、この国のある貴族(きぞく)は聞く耳を持たず、彼らを受け入れ続けているのだという。


「とまあ、そういうわけで、ここへはまず人間は来ないんだよねぇ」


猫女は、結構(けっこう)なシリアスな話を笑い話でもするかのように続けた。


この旧市街(きゅうしがい)にいる者の多くは、移住(いじゅう)してきた者ばかりで、仕事はなく、亜人たちは窃盗(せっとう)強盗(ごうとう)などの犯罪(はんざい)などに手を()めるようになったそうだ。


なるほど。


それで中心街(ちゅうしんがい)とここは別の(まち)みたいに(ちが)うわけだ。


(とみ)集中(しゅうちゅう)するところは(ゆた)かで安全(あんぜん)


(ぎゃく)(まず)しいところは治安(ちあん)(わる)くなっていく。


やはり経済状況(けいざいじょうきょう)と治安の良さってのは、切っても切れない関係にあるものだな。


「でもまぁ、もうここへ来っちゃているわけだしぃ。たっぷり楽しんでいきなよ。食事に(かん)してはここも中心街に負けないくらいオススメだよ」


いや、そんな治安が悪いところと聞いて楽しめるはずがないだろう。


それに食事に関しても、このゴミ()めのような街並(まちな)みを見るに、とても美味(おいし)いが食べれるとは思えない。


……と、思ったが。


ビクニとググはこの猫女の言い方に(まど)わされたのか、


表情(ひょうじょう)をウキウキとさせていた。


……(まった)くこいつらは。


この猫女が見せた雰囲気(ふんいき)に飲まれ()ぎだ。


それから俺たちは、その食事ができるところへと向かった。


その道の途中(とちゅう)――。


街角(まちかど)には、みすぼらしい格好(かっこう)した亜人たちがたむろしていて、(するど)視線(しせん)を飛ばすように(にら)んでくる。


そして、こちらと目があってもその視線をそらすことはない。


亜人たちは中心街の連中(れんちゅう)とは(ちが)ってニコリともせず、しかも老若男女(ろうにゃくなんにょ)()わずこちらをジロジロと見てくる。


「うぅ……なんか私たち、メッチャ見られてない」


さっきまでのウキウキ顔はどこへやら。


ビクニはビクビクと(おび)えていた。


だが、ググはそんなビクニを見て嬉しそうに()いている。


……う~ん。


やはりググのことはよくわからん。


ただビクニの反応(はんのう)をマネをしているだけならわかるんだが、どうもそういうわけではなさそうだ。


そして、店に到着(とうちゃく)


俺たちは()()ぐにカウンターへと向かい、早速(さっそく)猫女からもらった紙を()し出すと――。


「なんだお前? 人間の子供(ガキ)がこんなところへ来てんじゃねぇよ」


店主であるエルフの中年(ちゅうねん)男が、ビクニの顔を見て(きゅう)喧嘩腰(けんかごし)になった。

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