第八十二話 宮殿に着いたら
先走った考えなしの女のおかげ――。
いや、悪く言い過ぎたな。
ともかく行動力のあるビクニのおかげで、俺たちはルバート·フォルテッシがいる場所を知ることができた。
そこは離れていてもよく見える宮殿だったので、迷路のような道も迷わずに進んでいくことができた。
まぁ、道の途中で運動神経が皆無なビクニが何度か転びそうにはなったが、運よく水路には落ちることはなかった。
「わぁ～すごいね。ライト王国のお城よりも大きいよ」
次第に近づく宮殿を見て驚くビクニ。
そのビクニの肩に乗るググも、同じような反応を見せていた。
俺はこの建物を見上げて考える。
遠目に見てもこの宮殿が、貴族たちの住宅、行政や司法などの複合した建物であるだろうことは、その大きさを見て判断できる。
きっとこの海の国マリンクルーシブルを統べる場所なのだろう。
それに見合った風格のある宮殿だ。
出入り口である格子門にへと近づいていくと、そこには優雅にワインを飲んでいる門番二人の姿が見えた。
おいおい、大丈夫かこの国は……。
仮にも宮殿の出入り口を守っている奴が酒なんか飲んでいていいのかよ……。
「あ、あの……す、すみません」
格子門の前に着くと、ビクニがオドオドしながら門番に声をかけた。
こいつが何をそんなに怯えているのかわからん。
今までの旅の大変さに比べたら、知らない奴に声をかけることくらいわけもないはずなのだが。
「ル、ルバート·フォルテッシさんは、ご、ごご在宅でしょうか? じじ、実はこ、この手紙を渡したくてそうろう……」
震える声で俺と話すときとは別人のようなビクニ。
おまけに喋り方まで変だ。
ググこんなときのビクニも好きなようで、嬉しそうに鳴いている。
そんなビクニに門番たちはご機嫌な様子で答えてくれた。
どうやら俺たちの目当ての人物――ルバート·フォルテッシは現在どこかへ出掛けているらしい。
いつ戻ってくるのかをビクニが訊ねると、門番たちは片手を上げて首を傾げた。
酒が入っているのもあるのだろう、その様子はおどけている酔っぱらいそのものだった。
その酔っぱらい門番たちが言うに、ルバート·フォルテッシは、出掛けると数日は戻らないことが多いらしい。
だから、会って手紙を渡したいのなら、根気よく宮殿に通うことだと言われた。
「えぇ～そんな～」
ガッカリして肩を落とすビクニに合わせてググも俯いていた。
最近よく思うが、ググの奴はビクニと同じような仕草をすることが増えた気がする。
いや、俺の気のせいか……。
それならビクニがグチグチ喚いているときに、嬉しそうにしているのはおかしいものな。
「どうしよう、ソニック……」
「とりあえず明日また来てみよう。運が良ければ会えるだろうしな」
「私……運の悪さにだけは自信あるんだけれど……」
「その考え方は改めろよ。ったく暗黒女が」
俺の言い方が気に入らなかったのか、ビクニはいきなり喚き始めた。
まぁ、いつものことだ。
「誰が暗黒女だ! あやまれソニック! 今言ったことを撤回しろ!」
俺はやれやれとため息をつきながら適当に謝った。
するとビクニは「わかればよろしい」と、すぐに機嫌を直した。
本当に扱いやすくて助かる。
「じゃあ、落ち着けるところを探そうか。お風呂入りたいし、温かいご飯食べたいし」
ビクニがそういうとググも賛成とばかりに鳴いた。
そして俺たちは、宮殿を離れ今夜泊まれる宿を探しに向かうことにした。
