第八十一話 暗黒騎士より獣使い
中心街を進んでいくと、まだ昼間だというのに店で酒を飲みながら話している若い男女の姿や、道に見える屋台を出している店主らもなんだかのんびりと日向ぼっこしているような感じだった。
さっき港でこの国は今内戦で大変なのだと聞いていたわりに、けしてそんな風には見えない。
どこからどう見ても平和そのものだ。
石畳の街路に集まる鳥たちや、野良であろう犬や猫へ餌をやり、遠くから聞こえる教会の鐘の音に祈りを捧げる。
やはり海の上に道があるため通路が狭いせいか、どこにでもある馬車などはないが、荷物運び用の台車や手押し車が多く見られた。
道と道をを繋ぐ橋も多く、どうやら移動手段は馬ではなく、俺たちがここへ来るときに利用したボート――ゴンドラが主流のようだ。
さて、とりあえず治安は良さそうだな。
この国は貿易都市として有名だし、愚者の大地もわりと近い。
そのため、世界中の質の悪い連中がいるかと思っていたが、どうやら俺の考え過ぎだったみたいだ。
「……って、何やってんだビクニ……」
「何やってんだって……なんか来ちゃったんだもん」
俺がふとビクニのほうを見ると、いつの間にか鳥や犬、猫がこの女の周りに集まっていた。
近くには餌をやっていた人間も多いというのに。
そういえば森の中でも色んな動物たちが寄って来ていたが、この女は暗黒騎士よりも獣使いの才能のほうがあるんじゃないか。
鳥たちはビクニの肩や頭に乗り、犬たちはその周りを走り回り、猫たちは足に頬ずりしている。
餌一つ与えていないというのに、どうしてこいつはこんなにも動物に好かれるのか全くの謎だ。
それから、俺の頭の上に乗っていたググが羨ましかったのか、突然ビクニの頭に飛び乗った。
見事ビクニの頭に乗ったググが大きく鳴くと、動物たちは一斉に離れていく。
ググの奴は嫉妬でもしたのか、めずらしく怒っているように見えた。
そんなググを胸に抱き、ビクニが俺のほうへと近寄ってきた。
「まずはこの手紙に書いてある人――ルバート·フォルテッシさんって人を捜さなきゃね」
「しかし、これだけ広い国だからな。人探しするにしても骨が折れそうだ」
「うぅ……たしかにそうだよね……」
港からここへ来るときに思ったが、この国はかなり大きい上にどの家も石やレンガでできているため、旅人である俺たちには全部同じに見えてしまう。
それにちょっと小さな道に入ると、まるで迷宮へと迷い込んでしまったかのように、もう元いた場所にも戻れないくらい入り組んでいた。
これでは、たとえ人に訊ねて行き先がわかっても、俺たちの土地勘では目的地へ辿り着けそうにない。
俺がそんなことを考えていると、ビクニが屋台の店主に早速道を訊いていた。
やれやれ、相変わらずの考え無しだ。
ビクニはルバート·フォルテッシという人物のことを聞けたのかはわからないが、俺のところへ戻って来る。
「おい、ビクニ。お前って奴はまず考えてから行動しようとか思わないのか? いくら道を聞いても俺たちだけでこの街を進んでいったら確実に迷うだろ?」
「そんな言い方ってないじゃん! 私がせっかく聞いて来てあげたのに」
あぁ……出た。
またむくれてしまった。
俺が正しいことを言うと、この女はいつも決まって不機嫌になるんだよな。
本当に面倒臭い……。
「はいはい、俺が悪かったよ」
「言い方……」
「あぁぁぁッもうッ! 本当に申し訳ございませんでしたッ!」
「わかればよろしい」
面倒なのだが、機嫌は簡単に戻る。
そういう意味では楽な奴ではあるが……。
「じゃあ、行きましょうか」
「だから、俺たちだけじゃ道に迷うって言ってんだよ」
「大丈夫だよ。ほらソニック、あれを見て」
そのビクニが突き立てた人差し指の先には、宮殿が見えた。
他の建物とは比べものならないくらいの大きさだ。
あれはこの国の城みたいなものか?
「ルバート·フォルテッシさんって人は、あそこに住んでいるんだって」
