表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/215

第八話 世界は平和に

リンリがホーリー·ソードでバハムートを(たお)してから数ヶ月後(すうかげつご)――。


私はライト王国の城にある一室のベットの上にいた。


長い黒髪はだらしなさを強調(きょうちょう)するようにボサボサで、さらに元の世界で着ていた上下黒のスエット姿(すがた)でだ。


私は特に何をするでもなく、ただ横になって猫のように丸まっていた。


「ちぃーす、ってビクニ、まだそんな格好(かっこう)をしてたんすか?」


今私の部屋に入ってきた女の人の名前はラビィ·コルダスト。


このライト王国のメイドの一人であり、私の身の回りの面倒(めんどう)をみてくれるお世話係(せわがかり)だ。


いつも半目(はんめ)で何かとかったるそうにしているけど、元は凄腕(すごうで)傭兵(ようへい)武芸百般(ぶげいひゃっぱん)だとか。


彼女の武勇(ぶゆう)は他の国でも有名(ゆうめい)なようで、通称(つうしょう)――暴力(ぼうりょく)メイドと呼ばれ、超武闘派(ちょうぶとうは)で通っているみたい。


ちなみに私は、彼女のことをラビィ(ねえ)って呼んでる。


(しゃべ)り方とか態度を見て、その呼び方が合っていると感じたからだ。


「え~別にいいじゃん。どうせ今日も誰とも会わないし」


「うちと会ってんじゃないっすか」


「ラビィ姉はいいの」


私の態度(たいど)を見て、ラビィ姉は大きくため息をついた。


何故こんなことになっているのかというと――。


リンリがバハムートを倒した後。


私たちは剣の(あつか)いや魔法の使い方を、城にいる兵士や宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)(おそ)わることとなった。


だけど――。


「では、打ってきてください」


「は、はい。うおりゃ! って!? 重い、重すぎるよこの剣ッ!? うわあ~!」


剣を振れば、その重さで身動きが取れなくなった上に転んでしまう。


「では、手を(かざ)し、(まと)に向かって魔力を()めてみてください」


「は、はい。はぁぁぁ! うん!? やった出たよ!」


「うわぁ! 城壁(じょうへき)に大きな穴がッ!」


魔法を使ってみれば、魔力のコントロールはできずにお城を穴を開けてしてしまう始末(しまつ)(その上、出せる魔法の属性はバラバラで、しかも出る日と出ない日がある)。


といった感じで、何もものにならなかった。


そんな私と違い、リンリはメキメキと実力をつけて、ついには大賢者(だいけんじゃ)メンヘルと共にモンスターたちが(あば)れる原因(げんいん)()き止める冒険(ぼうけん)へといくことになった。


本当だったら私も一緒にいくはずだったのだけれども……。


「ビクニ。すぐに世界なんか平和にしてすぐに(もど)って来るからね」


ライト王国の宝物庫(ほうもつこ)にあった純白(じゅんぱく)甲冑(かっちゅう)に身を(つつ)んだリンリ。


すぐすぐ言っていて頭悪そうだけど、もう誰がどう見ても聖騎士(せいきし)様だよ。


「気を付けてね、リンリ。死んじゃったらイヤだよ」


「大丈夫だよ、ビクニ。世界を救うなんてワンパンだよ、ワンパン」


そう、前と同じことを言いながら、何もない空中に向かってシュシュっとジャブを連打するリンリ。


おいおい、あんたは聖騎士なんだから剣と魔法を使わないとダメだろう、と言いたくなったがやめておいた。


そして、私はメンヘルにもお別れの挨拶(あいさつ)をした。


「メンヘル。あの……リンリのことをお願いします」


(まか)せてくれ。この僕の(いのち)に代えてもこの聖騎士少女は守ってみせるよ」


「あと、リンリの貞操観念(ていそうかんねん)(ひく)いからって、変なことしたり見せたり考えたりしたら、(かなら)ずあなたを(のろ)い殺します」


「信用ゼロだねぇ……」


それから二人は、リンリが倒したことで正気に戻ったバハムートに乗り、世界を救う旅へと飛び立ってしまった。


その(あいだ)の数ヶ月――。


私は元の世界と同じく部屋に引きこもり、ライト王に(たの)んで作ってもらったオセロの台と表と裏が白と黒の小さな石をもらって、ひたすらひとりオセロをする日々を送った(いや、寝ていることのほうが多いか)。


そして、今や世界は平和になった。


モンスターが暴れることがなくなり、他の種族(しゅぞく)(ふたた)び他の国と友好関係を持つようになった。


そう――。


リンリとメンヘルが世界を救ってくれたんだ。


「たまには散歩(さんぽ)でも行ったらどうっすか? 今日は陽射(ひざ)しが気持ちいいっすよ」


やる気のない声で私に言うラビィ姉。


積極的(せっきょくてき)に何かしてくるわけではないのだけれども、けしてほっとく感じでもない。


こういう暑苦(あつくる)しくない距離感(きょりかん)


それが、私が彼女を気に入っている理由だ。


どうも他の人はお節介というか、口うるさいか、放置するかの二択だから――。


だから、私はラヴィが好き。


まあ、ライト王国の人はみんな良い人なんだけどね。


どうも私にとって、それが居心地が悪かったりする。


この性格はいつか直したけれども。


居心地が悪いとか生理的に不快なことって、自分でどうにかできることじゃないねぇ。


「え~別にいいって。それよりも今日の(ばん)ゴハンは何?」


「さっき朝と昼の分を食べたばかりなのにもう夜メシの話っすか? まったくリンリは食うことにかけちゃ貪欲(どんよく)っすね」


(あき)れているラビィ姉の横で、ひとりオセロを続ける私。


こうして私――ビクニの異世界引きこもりライフは続いて行くはずだったのだけれども……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ