第七十三話 一歩手前
小刻みにリズムをとり、踊り出すノーミード。
そんな大地の精霊を目掛けて、リムが両手の掌に集めた波動を放った。
だけど――。
「どこを狙ってんのさッ! アタシは避けてもいねえぞッ!」
ノーミードへと放たれた波動は、あらぬ方向へと飛んでいく。
もうリムには、相手に狙いを定める力も残ってなかった。
なのに、私のために立ち上がって……。
「リムッ! 逃げてぇぇぇッ!」
私は声を振り絞って叫んだ。
そのせいで体も痛みで悲鳴をあげたけれど、それでも彼女だけでも逃げて――生き残ってほしかったから……。
だけど……それでもリムは――。
「……リムは逃げませんよ。もう……あのときのような……母様を失ったときのようなことが起こるくらいなら……リムは死んだほうがマシ……なのです……」
私の叫びも空しく、彼女はフラフラの状態でノーミードの前から動かなかった。
「ヤダッ! そんなの私がヤダよリムッ! 死んじゃヤダァァァッ!」
私は子供が駄々をこねるように喚き続けた。
そんなことをしても無駄――。
リムの決意が固いことはわかっている。
それでも私は、自分の感情を抑えることができない。
だって、リムが死んじゃうなんて絶対に嫌だ。
私が泣き叫んでいると、突然ノーミードが大笑いし始めた。
なにが起きたのか、私は確認しようと前を見ると――。
「ししし。あらら～あんだけ啖呵を切っておいて立ったまま気を失っちゃってるよ～。どうせ壊れる運命だったんだから、あのままアタシに操られていれば幸せだっただろうにさ～。いやいや、バカだね～。しッしししぃぃぃッ!」
その場で踊り狂うノーミード。
そして、妙なポーズをつけて動きを止めると、地面から石や岩でできた柱のようなものが現れた。
その柱は次々に出現し、意識のないリムの周りを取り囲む。
「このまま押し潰してあげる。壊れたオモチャはやっぱり廃棄しなきゃだしね～。さ～て、粉微塵なるまでやるから見てなよ、暗黒騎士のお姉さん」
「お願いッ! やめてッやめてよッ! リムを殺さないでッ!」
恍惚の表情を浮かべたノーミードは、嬉しそうに左右に揺れ始めた。
被っているとんがり帽子も、あり得ないくらい曲がりながら、ノーミードと同じように揺れている。
「ししし。お姉さん、いい顔するな～。そんな顔されたらやめるわけないじゃんッ!」
そして、まるで舞台俳優のように大袈裟に両手を掲げた。
すると、リムの周りを取り囲んでいた、石や岩でできた柱のようなものが一斉に動き出す。
四方からリムの体を押し潰す気だ。
「ダメッ!? やめてッ!」
「やめねえよ、バ～カ」
泣きながら訴えかける私のことを、ノーミードが嘲笑う。
当然私の言葉になんて耳を貸してくれない。
リムが死んじゃう……誰か……誰か助けてッ!
そう――私が心の中で叫ぶと、柱のようなものがリムの一歩手前で止まった。
私は、ノーミードが焦らして遊んでいるのかと思って見てみると、本人も何が起きているのかわからないといった様子だった。
「えぇッ!? な、なんでッ!? どうして止まるんだよッ!?」
そして、驚愕しているノーミードに、いきなり小石が投げつけられた。
顔を歪めながら、石が飛んできた方向を見たノーミード。
私も這いつくばりながらそちらを見てみると――。
「わかんねえのか? それでもお前、精霊かよ?」
そこには頭にググを乗せたソニックが立っていた。
