第七話 聖騎士の目覚め
バハムートが炎を吐こうとしたその瞬間――。
突然氷の刃がバハムートに降り注いだ。
「ライト王様、今のうちにリンリとビクニを連れてお逃げください!」
メンヘルがそう叫びなから連続で氷の魔法をバハムートにぶつけていた。
あのしまりのない顔が、別人のようにキリッとしている。
頷いたライト王は、すぐに私とリンリを抱えて走り出した。
いくら私たちが軽いとはいえ二人――。
もうお爺ちゃんのライト王には重いはずなのに……。
「安心するのだ。お前たちは必ず守ってみせる。死んでいった兵士のためにも……この世界のためにも……ここで二人を失うわけにはいかんからな」
息を切らしながら、笑みを浮かべて私たちに語りかけてくるライト王。
私はすでに泣いていたが、そんな王様の思いや優しさに涙がさらに溢れてしまう。
しばらくして城が見えてきた。
「よし、あそこにさえ戻れば!」
ライト王がそう言った瞬間――。
空からバハムートが現れた。
そして、ゆっくりと地面に着地し、私たちの前へと立ちはだかった。
その手には血塗れのメンヘルが握られている。
呻いているのをみると、まだ生きていそうでよかった。
「我から逃れられると思ったか? けして逃がさん、逃がさんぞ!」
ボロボロになったメンヘルを投げ捨て、バハムートはその口を大きく開く。
また炎を吐くつもりだ。
「そうはさせん!」
ライト王は私たちを地面へ置くと、剣を抜いて、バハムートに斬りかかった。
でも、ドラゴンの皮膚は固く、その鱗に叩きつけた鋼鉄の剣は脆くも折れてしまう。
「王族ごときが邪魔をするな!」
「うがぁぁぁ!」
悲痛なライト王の叫びを聞いた私は両目を閉じ、耳を塞いでいた。
怖くて仕方がない。
もう何も見たくない。
人が死んだり、傷ついたりするのなんて見たくないよぉ。
だけど、ドサッと音が鳴ったせいで、つい目を開いてしまう。
そこには右の肩から腕を食い千切られたライト王が、苦しそうな顔をして倒れていた。
見たこともないくらい血が流れていて、王様の着ている服を赤く染めていた。
「リンリ、ビクニ、逃げるのだ……」
そんなになってもライト王は、私たちのことを心配していた。
だけど、怖くて体が動かないよぉ。
そんな姿を見て、もう逃げ出すことはないだろうと思ったのか、バハムートはゆっくりと私たちのほうへと向かってくる。
……殺されちゃう。
私……こんなところで殺されちゃう。
いきなり異世界に召喚されて死ぬなんてイヤだ……イヤだよぉ……。
ふと、横を見ると、リンリが私を庇うように立ち上がっていた。
「リンリ……」
「大丈夫だよ。ビクニはあたしが守るから!」
リンリがそう言うと、突然頭に付いていた髪飾りが輝き始めていた。
そして、その光が彼女の手に集まり、次第に剣の形へと変化していく。
その剣は2メートルはあろう長さで、刃の幅も私たちの体と同じくらいの広いものだった。
身長150センチくらいのリンリが持つと、見た目以上に大きく見える。
「その剣はまさかッ!? ホーリ―·ソードかッ!?」
剣を持ったリンリの姿を見て、バハムートが激しく動揺している。
そして、リンリはその大きく重たそうな剣を構えて斬りかかった。
ホーリ―·ソードと呼ばれた剣は、さっき鋼鉄の剣が折れてしまうほどの固さを誇ったバハムートの体を貫く。
すると、黒いオーラのようなものがバハムートの体から出ていき、その場に倒れてしまった。
「あら? 今のでやれたんだ。やっぱワンパンじゃん」
リンリは、自分で剣を振るっておきながら、まさか倒せるとはといった顔で自分の頭を掻いていた。
「ね、あたしが守ってあげたでしょ」
そして、腰を抜かしている私にそっと手を差し伸べた。