第六十七話 大地の精霊ノーミード
魔力の波動が目に見える。
それは余程強力であるということを、以前にラヴィ姉から聞いたことがあったけれど。
いや、それよりも今は――。
「リムッ!? なにをしているのッ!? 今すぐやめてよッ!」
私は何かの間違いだと思いたかったけれど。
そこにいるのはたしかにリムだった。
ノースリーブ姿にフードを被った女の子なんて、この世界じゃ彼女しかいない。
それに、その手からは炎が迸り、風がそれを巻き上げていた。
属性の違う二つの魔法――。
しかも、それを同時に唱えることができるなんて、この里ではリムしかいない。
私がリムの姿を見て戸惑っていると、彼女の体から火と風が消えた。
そして、次の瞬間には、その体に氷が覆い始めている。
足蹴にされているエンさんは意識を失っているのか、微動だにしない。
まさかエンさんに止めを刺すつもりなんじゃ……。
「リム嬢! どうかおやめください!」
私がそう思っていると、倒れていた武道家たちが立ち上がった。
そして、リムを取り押さえようと全員で一斉に飛び掛かる。
だけど――。
「ブリザードブレス……ライトニングボルト……」
リムが両手を翳して呟くと、氷塊が嵐のように吹き、光り輝く稲妻が放たれた。
取り押さえようと飛び掛かった武道家たちは、彼女に触れることもできずに、ある者は突き刺さる氷に倒れ、またある者は電撃を浴び、その場で動けなくなってしまった。
私はさらにわけがわからなくなっていた。
だってリムは、一日に三回しか魔法を使えないはずなのに、どうして……?
まだ溢れる魔力の波動が目にも見えているし、ひょっとして彼女の魔力が上がっているってこと?
でも、ソニックが魔力の量は生まれたときから変わらないって……。
「ししし。ねえ、そこの暗黒騎士のお姉さん。よかったら、アタシが教えてあげようか?」
妙な笑い声が聞こえたらと思ったら、地面から小さな女の子が現れた。
いや、とんがり帽子を被った子供のような女性と言ったほうがいい。
だって、こんな妖艶な雰囲気の子供がいるなんてはずないもの。
耳もちょっと普通よりも尖がっているし、明らかに人間じゃない。
「あなた……誰……? もしかして、リムになにかしたのッ!?」
私が怒鳴ると、その小さな女性はまた「ししし」と笑い出した。
そして、被っていたとんがり帽子を取って、私に向かって丁寧に頭を下げる。
その芝居がかった態度は、誰が見てもこちらを小馬鹿にしているようだった。
「ししし。これは失礼しちゃったね。アタシの名はノーミード。こう見えても一応大地の精霊をやっちゃってるよ。よろしく~」
丁寧な動きなのだけれど、その口調はまるで、私がいた世界にいるようなパーティ·ピープル――パリピのように軽い。
こいつ、今大地の精霊って言ったよね……?
それがどうして武道家の里にいるの?
「ししし。お姉さん知りたい? ねえ、知りたい? ねえねえ……ねえぇぇぇッ!」
笑っていたかと思うと、突然叫んだノーミードという精霊。
私はその叫び声を聞くと、恐怖で体が震えてしまっていた。




