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第六十四話 彼女の伝言

(つぎ)の日の朝――。


用意(ようい)してくれていた朝食(ちょうしょく)をいただき、屋敷(やしき)から出て、(もん)ところまで来た私たち。


そこにはエンさんを(ふく)め、大勢(おおぜい)屈強(くっきょう)武道家(ぶどうか)たちが見送(みおく)りに来てくれていた。


(ほか)にも(さと)の女性や子供たちも、私たちに礼儀正(れいぎただ)しく頭を下げてくれている。


「ライト王国の暗黒騎士(あんこくきし)ビクニとその従者(じゅうしゃ)ソニックとググに敬礼(けいれい)ッ!」


エンさんは私たちに(さと)(すく)ってくれたことの(れい)の言葉を()べると、武道家たちへ号令(ごうれい)をかけた。


その()け声と後に、大勢いた武道家たちが一斉(いっせい)に右の(こぶし)を左手で(つか)んで(むね)()ると、全員が同時(どうじ)に頭を下げる。


エンさんは、私がライト王国から来たことをリムから聞いたのかな。


そうか……きっとあの後だよね……。


「暗黒騎士殿(どの)とその従者殿たち。(まこと)感謝(かんしゃ)いたします!」


それから、みんな声を(そろ)えてお礼を言ってくれた。


ものすごい光景(こうけい)だったけれど、私の(こころ)(うわ)(そら)だった。


何故なら、リムは私たちの見送りに姿(すがた)(あらわ)してくれなかったからだ。


リムは、私たちが目を()まして朝ごはんを食べているときもいなかった……。


きっと昨夜(さくや)のこと――。


スライムが里を(おそ)ったときに、私を助けるため魔法(まほう)を使ったからだろう。


私は、リムが自分の部屋で謹慎(きんしん)か何かされていると思うと、どうしてもやりきれず、普段通(ふだんどお)りになんてできなかった。


「海の国へ行きたいのなら、ここから()()ぐ行った(さき)に大きな道がある。あとは道なりに進んでいけば到着(とうちゃく)するはずだ」


エンさんが上の空の私ではなくソニックに、次の私たちの目的地(もくてきち)へと行くための説明(せつめい)と、(たび)必要(ひつよう)食料(しょくりょう)野宿(のじゅく)するための道具(どうぐ)()まった荷物(にもつ)(わた)していた。


いつもなら、こういうのは私の役目(やくめ)なんだけれど。


目を()()()らした私に気を(つか)ったのか、すべてソニックがやってくれた。


それから、まるでゾンビのような足取(あしど)りで私は門の外へと出た。


そんな私の様子(ようす)を見た里の子供たちの声で「あの騎士のお姉ちゃん大丈夫なの?」という、心配(しんぱい)する声が聞こえたけれど。


今私にはそれに笑顔を返して、心配いらないよ言えるだけの気力(きりょく)はなかった。


そして、(わか)(ぎわ)にエンさんが私に――。


()(むすめ)リムが、騎士ビクニに感謝(かんしゃ)謝罪(しゃざい)をしていたことをここに(つた)える」


やめて……。


「ビクニは本物(ほんとう)英雄(えいゆう)だった。ワタシの見る目は間違(まちが)っていなかった、と我が娘リムは述べていた」


やめて……。


「しかし、今朝(けさ)反省(はんせい)のため見送りをできないことをどうかお(ゆる)しください……。以上(いじょう)、我が娘リムがビクニ(つた)えておいてほしいと言った伝言(でんごん)である。里のことだけでなく娘のことを含め、私からも今一度感謝を」


やめてよ……。


私はそのリムの伝言を聞いて、(むね)(くる)しくてしょうがなかった。


感謝するのも謝罪をするのも私のほうだよ。


リムのおかげで二度も(あぶ)ないところを助けてもらったのに……。


私にはなにもしてあげられない……。


むしろ私を助けたばっかりにリムは……。


だから、謝るのは私のほうなのに……。


私はエンさんや武道家たち、里の人たちの顔を見ずに頭を下げ、そして逃げるように(ある)き出した。


ここで私が「リムを許してあげて」と言っても、それは(ぎゃく)に彼女に迷惑(めいわく)をかけることなるかもしれない……そう思うともう何も言えなかったのもあった。


早足(はやあし)で進んでいく私の後ろに、まだ()ているググを頭に()せたソニックが()いかけてくる。


「おいビクニ。待てって」


私は彼の言葉が聞こえているにも(かか)わらず、さらに早く歩いた。


すると、追いかけては来るけれど、もうソニックは私に待つようにと言うことはなかった。


「しっかし里の連中(れんちゅう)(ひど)いよな。俺とググのことをビクニの従者だってよ」


ソニックは私に言っているのか、それとも(ひと)(ごと)を言っているのかわからない感じで話を続けている。


武道家の里――ストロンゲスト·ロードが、大分(だいぶ)小さく見えるところまで歩いた(ころ)――。


突然(とお)くから爆発音(ばくはつおん)が聞こえた。


私たちは足を止めて()り返ってみると――。


「おい。里から黒い(けむり)が出てんぞ……」


爆発音のほうには、私たちがさっき出発(しゅっぱつ)したストロンゲスト·ロードから火の手が上がっていた。

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