第六十一話 結局守られてる
リムはもちろん、エンさんも目の前で起きたことのせいで戸惑っていたけれど。
そこはさすが大人――いや、里をまとめている長だけあってすぐに冷静さを取り戻し、私の話に耳を傾けてくれた。
ソニックの作戦――。
魔法がダメなら松明をつかえばいいじゃない作戦。
元ネタは私が言ったマリー·アントワネットの引用――。
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない作戦改め――リムが魔法を使えないならソニックが使えばいいじゃない作戦なんだけれど。
私のせいでリムに魔法を使わせちゃった……。
でも……今は謝ったり、落ち込んでいるよりも里をスライムから救うのが先だ。
話を聞いたエンさんは、早速の武道家たちに指示を出し、油をたっぷり付けた薪を用意させた。
そして、それに火を付けてスライムの体に投げつけるように、武道家たちへと号令をかける。
「奴を囲うように投げつけるんだ!」
エンさんの言葉とともに一斉に投げつけられる火の付いた薪。
それからさらに油の入った布袋も放っていく。
一気に燃え上がる炎。
それに包まれた巨大なスライムは、苦しそうにうごめいていた。
そして、その体は次第に小さくなっていく。
「こいつで終わりだッ!」
ソニックが空から持っていた松明を投げつけると、スライムは断末魔の叫びをあげかのように炎の中を突き進み、私たちのほうへと向かってきた。
リムが私を守るように前へ出ると、さらにその前に武道家たちが並んでいく。
私……里を救おうとしたのに……結局守られるよ……
ホント情けない……。
それから、壁のように並んだ武道家たちを飛び越えていく影が見えた。
それはエンさんだった。
エンさんは両手を前方へと突き出し、その掌から波動を放つ。
体の小さくなったスライムは、その波動によって完全に消滅した。
「皆の者! 我々の勝利だッ! 勝ちどきを上げろッ!」
エンさんのまるでスピーカーにでも通したのかと思うほどの大声に、武道家が一斉に声をあげる。
里の屈強な男たちが揃って叫ぶ姿は、なにか部族の儀式みたいだった。
私がその光景に圧倒されていると――。
「やりましたねビクニ」
リムが私の両肩に両手を乗せてニコッと笑っている。
私は笑顔を返したけれど、すぐにいたたまれなくなった。
だって……リムに魔法をつかわせてしまったんだもん。
きっと隠していたことだったのに、顔向けなんてできないよ……。
「リ、リム……ご、ごめんね。わ、私のせいで……」
言葉がどもる。
せっかく仲良くなったのに、また元の私に戻ってしまう。
だけど、そんな私に対してリムは……。
「何をおっしゃるのですかビクニ。里を救ってくれた英雄がそんな顔をしていてはダメなのです。さあ、顔をお上げて下さい」
右の拳を左手で掴み、胸を張ってニッコリと微笑んでくれた。
私は泣きそうになるのを堪え、顔を上げて笑顔を作った。
いや、作っていない。
嬉しくて泣きながらも笑いそうになっていたんだ。
「そうなのです。リムはビクニのその顔が大好きなのです」
「そ、そうなの……?」
「はい。なのですよ~」
笑顔で向き合う私とリム。
だけど、そんな暖かい雰囲気はすぐに崩されてしまう。
それは、私の目の前いるリムの後ろに、エンさんが怖い顔をして立っていたからだった。
「リム。あとで話がある」
「はい……父様……」
声をかけられ――。
リムの笑顔は消えてしまった。




