第五十七話 スライムは雑魚じゃない
それでも武道家の里――ストロンゲスト·ロードの男たちは巨大なスライムに立ち向かっていた。
鍛え抜かれた拳を何度も突き、丸太のような足で鋭い蹴りを放ち続けているけれど。
スライムには全くダメージはなさそうだった。
「えっ……スライムって……ゲームとかじゃ雑魚キャラじゃないの? それなのに……どうして……?」
元の世界での知識とは違ってたのもあって、私はその場で立ち尽くしてしまっていた。
目の前では、立ち向かっていた武道家たちが飲み込まれ、その体をスライムの体内で溶かされていく。
苦痛と恐怖で歪むたくさんの顔が私のほうを見てくる。
そして、スライムは狼狽えている私に向かって動き始めた。
ググが私の頭の上で激しく鳴いている。
「逃げなきゃ……早く逃げなきゃ……」
動かないと死んでしまうのにはわかっているんだけど、怖くて足が言うことを聞いてくれない。
眼前にはもう、私を捕食しようとしているスライムが迫っていた。
どうしよう……このままじゃ食べられちゃう……。
私がもうダメだと思ったそのとき――。
「ファストドライブ!」
聞き慣れた少年の声が聞こえた。
そして、気がつくと私は宙に持ち上げられていた。
「ったく、先に寝てろって言っただろう」
ソニックが速度を上げる魔法を唱え、そのコウモリの翼で空へと飛び、私とググを助け出してくれたのだった。
私はホッとしてから、彼の顔を見上げて睨みつけた。
「モンスターが来ているのに眠ってなんかいられないよ」
「それで食われかけてちゃ世話ないな」
「っく!? でもでも、それもこれもソニックがちゃんと説明してくれないからじゃん! ……でも……助けてくれてありがとう……」
「そんなことよりも今はこいつをどうにかしないとな」
それからソニックはスライムについて話し始めた。
スライムは触れるものを同化、捕食したり、酸性の体液で剣や鎧を腐食させたりする。
さらに食えば食うほど巨大に成長していき、始末に困る、とてもかなりやっかいなモンスターなんだそうだ。
「あとスライムには打撃が効かない。そういう意味じゃこの里にとって天敵と言っていいモンスターだ」
そりゃ武道家の里だもんね。
自らの体が武器なわけだから、触れたら捕食するスライムとの相性は最悪のはずだ。
「じゃあ、どうすればやっつけることができるの?」
「火だな。ヘルフレイムでも使えば簡単に倒せる」
ソニックが言うに、攻撃魔法――特に火の魔法が使えればそんなに大した相手ではないみたい。
私はそれを聞いて安心していた。
だって、この武道家しかいない里にも魔法を使える子がいる。
色んな魔法を同時に唱えられるほどの実力者――リム·チャイグリッシュがいるんだ。
脳みそが筋肉――略して脳筋だらけじゃないんだよ、この里は!
「ビクニ! ソニック! ググ! お三方! ケガはないですかッ!?」
それから私たちが逃げ回っていると、そこにリムが父親で里長であるエン·チャイグリッシュことエンさんと一緒に現れた。
これでもう大丈夫と私は思っていたけれど。
現れたリムは、一向に魔法を使おうとはしなかった。
エンさんと一緒に、前に私たちの前で見せたくれた技――オーラフィストという掌から波動を放つ技でスライムを牽制している。
「リム……。なんで……なんで魔法を使わないの……?」
