第五十六話 伝えたいこと
ググのフサフサした毛を抱きしめながら私は思う。
やっぱり久しぶりのベッドは気持ちがいい。
それに、リムとも色々なことを話せて楽しかったし。今夜は気持ちよく眠れそう。
ああ、お婆ちゃん……。
私にもリンリ以外の友達ができそうです……。
そして、ベッドで横になっていると、いつの間にか自分でも気がづかないうちに眠ってしまった。
それからどのくらい経ったのかわからないけれど。
私は、抱いていたはずの幻獣に起こされる。
ウトウトと目を開けると、何故かググは私の体の上でピョンピョン跳ねていた。
せっかく気持ちよく眠っていたというのに、なんなんだよ全く……。
「う～ん、どうしたのググ?」
ググはめずらしく慌てていた。
何かを私に伝えたいのだろうけれど。
ただ必死にピョンピョン跳ね続けて鳴いている。
「もう～鳴いてるだけじゃわからないよ、ググ～」
その様子からして、ググがふざけていないことはわかるのだけれど。
一体何を言いたいのかはわからない。
いくら鳴かれても、幻獣の言葉なんて知らないもんなぁ。
ググは、このままでは伝わらないと思ったのか、急に部屋の窓のほうへと向かっていった。
私は窓を開けて外を見てみると、遠くのほうから大きな破壊音が聞こえてきた。
「まさか……モンスターが入って来たの?」
前にライト王国で、突然バハムートが襲ってきたことがあったけれど。
ここは王国に比べたらせいぜい木の防護柵があるくらいだし、もっと私も警戒しておくべきだった。
そうだよ……。
この世界じゃいつモンスターに襲われるかわからないんだもの……。
私はそんなことを考えながら、あることを思い出していた。
「ちょっと気になることがある。お前とググは先に寝てろ」
そう――。
ソニックが言っていたことだ。
もしかしてソニックが気にしていたことって、今外から聞こえてきた破壊音と関係があるんじゃ……。
「わかったよググッ! 私たちも行こう!」
張りつめた声を聞いたググは、やっと理解してくれたかと言わんばかりに、また跳ね始めていた。
私は急いで服を脱いで、ライト王が特注――オーダーメイドしてくれた――上下黒のアンダーウェアと胸当てに着替える。
そして、屋敷の外へと飛び出し、破壊音が鳴っているほうへと向かった。
「あぁぁぁッ! ソニックったらどうして私たちに何も言わないんだよ!」
私は怒鳴りながら走っていた。
ソニックが、私とググに危ない目に遭ってほしくないから黙っていたとは思うんだけれど。
正直、言ってほしかった。
そりゃ暗黒騎士なのにろくに戦えない私なんかが、頼りにならないことは十分理解できる。
でも、それでも……私に力になってくれって言ってよ……。
「もう～ソニックのバカッ!」
私がソニックに悪態をつく度に、頭の上に乗っているググが、何故か嬉しいそうに鳴いている。
今の状況はわかっているはずなのに、一体何がそんなにググを喜ばしているのやら……。
やはり私の負の感情がこの子を元気にしているのかな?
破壊音が聞こえたほうへと向かうと、里の人たちがみんな自分の家から出てきていた。
きっとググと同じで、大きな音を聞いて目が覚めたのだろう。
里に住む人たちはみんな、不安そうに立ち尽くしていた。
でも、ここは武道家の里――ストロンゲスト·ロード。
どんなに強いモンスターだって倒されちゃうに決まっている。
それにリムもいるしね。
「……って。じゃあなんで私は誰よりも早く現場へ向かっているんだ……」
私のぼやきにググか嬉しそうに鳴き返してくる。
そうだ、そうだよ!
ソニックが関わっているかもしれないからだ。
あのコウモリ男め!
そもそもあいつがちゃんと説明さえしてくれれば、こんな寝起きで走る必要なんてなかったのに!
次に顔を合わせたときにガツンと言ってやるんだから!
そして、私とググは破壊音が聞こえてきた現場へと辿り着いた。
だけど私たちはそこで、とても予想していなかった光景を目にすることに――。
「う、うそ……みんな……やられちゃってる……」
そこには巨大なアメーバ――。
家さえも覆いそうな大きなスライムが、里の屈強な男たちを飲み込んでいた。
