第五十五話 本当の強さ
俯いてしまった私はリムに悟られてはまずいと思い、すぐに顔を上げると、何故か彼女が恥ずかしそうにしている。
そして、しばらくモジモジと身をくねらせると、ようやく口を開いた。
「実はビクニ……。ワタシは森で、あなたたちがグリズリーから逃げているのを見ていたのですよ」
どうやらリムは、森で私とソニックの会話を聞いていたらしい。
それから彼女は、そのときのことを話し始めた。
追いかけて来なくなったグリズリーが、モンスターに襲われたと知って私たちが助けに向かったこと――。
数で勝るポイズンアントの群れを相手に、果敢に立ち向かっていったこと――。
すべて最初から見ていたと――。
「リムは一人興奮していました。幻獣を連れた少年少女がモンスターへと向かって行く。一体どれだけの強者なのかと……」
「ううう……。でも、期待には応えられなかったね。リムが助けてくれなかったら私……間違いなく死んでたもん……。ホント……情けないよ」
私が弱々しい声でそう答えると、リムは首を左右に振る。
そして私の目を、これまでにない真剣な表情で見つめてきた。
「そんなことはありません」
「へっ!?」
リムの意外な言葉に、私は思わず声がうわずってしまった。
だって私は、あの子供でも倒せるポイズンアントを一匹やっつけたくらいで喜んでいるような奴だよ。
それで有頂天になって、危うく殺されかけるようなマヌケなんだよ。
それなのに、どうして……?
「ビクニは強いお人です」
「な、なんでそうなるの……? 私なんか弱いくせに粋がってるただのバカだよ……」
「いえ、リムは言ったでしょう? 最初から見ていたと」
真っ直ぐ見つめてくるリム。
彼女の言葉は止まらず、今度はソニックのことも話し始めた。
ソニックは私が助けに行くのを反対していたのに、結局手を貸した。
リムはそれを見ていて、私とソニックの関係が羨ましかったと言う。
「危険を顧みず戦いの場へと向かう仲間のために、自分の意見を引っ込めることができるなんて、すばらしい関係なのです。リムは感服していました。もちろんググにもなのですよ」
私は彼女に対して情けなさと申し訳なさで、目を合わせていなれなかった。
改めて言われるとわかる。
私の自分勝手な行動で、ソニックとググまで危ない目に遭わせてしまったのだと……。
私は本当にダメな奴だ。
リムみたいに力もないのに、どうしてあんなことをしてしまったんだろう……。
「ビクニ。顔をお上げてください!」
突然張った声で言われ、私はビクッとなってしまった。
そんな私を見たリムは、微笑みながら言葉を続ける。
「自分の弱さを知っていながら立ち向かっていける……。ビクニは私の思い描く英雄そのものなのです」
「リム……」
それから――。
私の大きなあくびを見たリムは、気をきかせて部屋を出ていこうとした(こんなときにあくびする私って本当にバカッ!)。
きっと彼女は、私が眠くなったのを察したんだろう。
本当によく人を見ている子だよなぁ。
「ビクニ。今夜はリムとのお話に付き合っていただき、誠に感謝なのです」
引き戸の前で振り返り、右の拳を左手で掴んで頭を下げるリム。
もうすっかり見慣れた挨拶だけれど。
彼女の表情は、いつもより見る顔よりも嬉しそうに見えた。
「そんな……私のほうこそ楽しかったよ。ありがとうね、リム」
そして、彼女は「おやすみなさい」と言い、ニッコリと微笑んで部屋を出ていった。
その後に私は、とてもいい気分のままベッドに入り、寝ているググを抱いて眠りに入った。
