第五十二話 全肯定
エンさんが出ていった後――。
食事をすませた私たちは、リムが入れてくれたお茶を飲んでいた。
それは、私がよく知っているお茶とは違って、真っ白な液体をした少し甘いものだった。
味はライスミルクって感じかな?
お茶といえば元の世界では緑茶。
ライト王国でいえば紅茶だったけれど。
この武道家の里ストロンゲスト·ロードでは、この白いお茶が一般的みたい。
「さあビクニ。これまでの旅のお話を、ぜひリムにお聞かせください!」
リムは父親であるエンさんの前では大人しくしていたけれど。
いなくなってから、急に私の知っている笑顔の多い彼女へと戻った。
うん、やっぱりこっちのほうがリムらしいよね。
エンさんって、やっぱり武道家の里長だけあって厳しいんだろうな。
リムの人が変わっちゃうくらいに。
それから、私は色々な話をリムにした。
ライト王国でのこととか、森で出会った少女ソリテールと木の精霊の話や――。
眼鏡の冒険者リョウタと女竜騎士レビィのことも。
話していくにつれて私たちは、お互いの趣味のことも言い合った。
リムは魔法関連の本や、魔法使いが主人公の英雄譚を読むのが好きだと言う。
「じゃあ、リムって鍛えているとき以外は、ずっと勉強しているんだ」
「いえ、魔法はリムにとって憧れなので勉強というよりは、やはり趣味なのですよ」
それで魔法を使えるようになっちゃうなんてすごいなと思ったけれど……。
ううう……彼女は性格も素直で顔も可愛い上に文武両道……。
彼女とのスペックの差を見せつけられ、私は心の中で少しへこむ。
「ビクニは自分のお時間に何をなさっているのですか? リムはぜひとも聞きたいのです」
「ひ、一人オセロかな……」
「オセロ……? なのです?」
それから私はオセロについて説明した。
オセロとは、それぞれ黒と白の石を担当する二人のプレイヤーが、自分の石で相手の石を挟んで自分の石に変え、お互いに盤面へ石を打っていき、最終的にどちらの石が盤面に多く置かれるかを競う遊びだと。
「でも、それは一人ではてきないのではないですか?」
……言わないでほしかったことを言われた。
リムに悪意はないのはわかるから嫌いになったりしないけれど。
そこは私の顔とか態度から読みとってよ……。
「できないことはないよ。一人二役やれば……」
自分で言っていて惨めになってきた。
だけどリムは――。
「一人でやる意味はわからないですが、二役をこなすビクニにリムは感服いたしました。さすがなのです」
「いや、覚えれば誰でもできると思うよ……」
さすがに、私の趣味である一人オセロは理解してくれなかったけれど（リムにとって、遊びは他人とやるものってイメージがあるみたい）。
まあ、オセロ自体この世界にはないのだから、しょうがないといえばしょうがない。
……いや、違うか……。
元の世界でも、一人オセロは理解されなかったな……。
リンリとお婆ちゃんくらいだった。
それから、食事をしていたこともあって、好きな食べ物の話にもなった。
リムは肉が好きみたいで、饅頭に肉を詰めたもの(肉まん)が大好物みたい。
私も当然肉は大好き。
でも、一番好きな食べ物って言われるとパッと浮かばないな。
「いや、あれだね。考えてみると意外と出てこないもんだね～」
「きっとビクニは美味しいものたくさん知っているから一つに決められないのですね。リムは感服いたしました。さすはビクニです」
「いや、私の家は貧乏だからそんなに美味しいものは知らないんだけれど……」
こんな感じで――。
出会ったばかり私のことを何故か全肯定してくれるリム。
なんか背中がむず痒くなるけれど、悪い気はしない。
「ビクニ! もっとお話をお聞かせください!」
リムがそう叫ぶと、横の席に座っていたソニックはうんざりした顔をしていた。
ググはそれを面白かったのか、笑うように鳴いている。
そんな彼らを見た私とリムも笑ってしまい、大広間には私たちの笑い声が響いていた。
