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第五十一話 表情の事情

この屋敷(やしき)料理長(りょうりちょう)――つまりコックさんが料理を()せた台車(だいしゃ)(はこ)んで来た。


そこには、饅頭(まんじゅう)なのかな? 肉まんみたいなものが山ほどと、野菜炒(やさいいた)め的なものと――あとなんと(ぶた)丸々(まるまる)一匹!


私、豚の丸焼きなんて(はじ)めて食べるよ。


「さあ、遠慮(えんりょ)はいらぬぞ。思う存分(ぞんぶん)食べてくれ」


リムのお父さんであるエンさんがそう言ってくれたので、私はいただきますと言うと、早速豚の丸焼きに箸をつけた。


この(さと)では、ご飯を食べるのに(はし)を使うんだね。


ライト王国ではナイフとフォークだったから、やっぱり私は箸のほうがいいな。


そして、(もと)から切られていた(ぶた)の肉を(さら)の上に乗せると――。


「うん?」


「どうかなさいましたかビクニ?」


リムが心配(しんぱい)そうな顔で声をかけてきた。


なにか(きら)いな食べ物でもありましたか? とでも言いたそうだったけれど。


私が箸を止めたのは、もちろん(ちが)理由(りゆう)だ。


「いや、これ……お(こめ)が入っているんだ!」


豚の中にはギッシリと米が()まっていて、この世界に召喚(しょうかん)されてからずっとパンばかりだったから、私は(うれ)しくてしょうがなかった。


私はお米を食べると、お(ばあ)ちゃんがよく作ってくれた、おにぎりのことを思い出していた。


お婆ちゃん……元気かな……。


私……絶対(ぜったい)にリンリと元の世界に(かえ)ってみせるからね。


「あの……ビクニ。大丈夫ですか……?」


「へっ?」


リムが心配そうな顔をまたしている。


どうやら私は自分ではわからないほど、ボーとしていたように見えていたみたい。


そんな私を横目(よこめ)で見たソニックが、フンッと(はな)()らす。


「食事中にボケっとするなよ。まったく、マナーがなってないな」


そう言いながらソニックは、普段(ふだん)乱暴(らんぼう)口調(くちょう)態度(たいど)のわりに、とても上品(じょうひん)に箸を使いこなしていた。


うぬぬ……。


ぐうの()も出ない……けれど、そんな言い方ないじゃん。


「ははは。ここは王宮(おうきゅう)ではないのだから、マナーなど気にせずに食べてくれ」


エンさんがそんな私たちを見て大笑いしながら、フォローしてくれた。


リムは、ググにもちゃんと小さなお皿を出してくれて、(うれ)しそうにモグモグと食べている。


私たちが(あたた)かい料理を食べるのは、本当に(ひさ)しぶりだ。


味付(あじつ)けはちょっと()かったけれど、もうそれだけでも美味(おい)しく感じる。


それから私たちは、食事をしながら自分たちのことを話した。


ライト王国から出発(しゅっぱつ)したこと――。


そして、(たび)目的(もくてき)――。


(おさな)なじみの聖騎士(せいきし)――晴巻·倫理(はれまきりんり)がいると聞いた愚者(ぐしゃ)大地(だいち)へ行くとこと――。


自分たちが暗黒騎士(あんこくきし)吸血鬼族(きゅうけつきぞく)幻獣(げんじゅう)バグであることを。


エンさんは吸血鬼族と聞いたときに――。


一瞬(いっしゅん)だけ(こわ)い顔をしたのを、私は見逃(みのが)さなかった。


ライト王国にいたときに、ラヴィ(ねえ)がずいぶんと警戒(けいかい)していた吸血鬼族だけれど。


ソニックの種族(しゅぞく)ってかなり評判(ひょうばん)が悪いんだな。


「では客人(きゃくじん)たち。私はこれで失礼(しつれい)するよ」


エンさんは私たちの素性(すじょう)を聞くと、(せき)から立ち上がった。


その様子を見るに、別に警戒されているわけじゃなさそうだ。


だけど――。


私が安心(あんしん)した途端(とたん)にエンさんは、さっき一瞬だけ見せた怖い顔以上の威圧感(いあつかん)のある表情へと変わった。


「ときにリム。お前……また森へ行っていたんだな」


「はい。父様……」


どうやら、リムが里を出て行ったのが気に食わない感じだった。


それにしても、そんなに怖い顔して怒らなくてもいいじゃんよ。


「……森へ行くのは(かま)わん。だが、稽古(けいこ)をサボるのは感心せぬな」


「いえ、父様……リムはサボってなど……」


リムが何か言おうとしていたけれど。


エンさんは彼女を(にら)みつけていた。


まるで(へび)に睨まれた(かえる)のようなリム。


それは金縛(かなしば)り……いや、見えない(くさり)拘束(こうそく)をされているようだった。


歯痒(はがゆ)そうな顔をしていた彼女だったけれど。


すぐに表情を戻し、深々(ふかぶか)とエンさんに頭を下げる。


(もう)(わけ)ございませんでした。次からは気を付けます」


「わかればよい。お前はいずれ、この武道家(ぶどうか)の里――ストロンゲスト·ロードを背負(せお)っていくのだからな。それを(わす)れるな」


「はい……父様……」


笑顔を()やさないリムが、こんなに(くら)いを顔をするなんて……。


何か事情があるんだろうけれど。


私はなんだか(むね)(いた)くなってしまった。

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