第五十話 似てないお父さん
入浴後――。
脱衣所には、体を拭く布と着替えも用意してあって、私はそれに着替えることにした。
なんか腕周りと足周りがダボダボだけど。
こういう服なのかな?
私はきっと部屋着みたいなものかなと思っていると、ソニックはどうもその服が気に食わないみたいで、自分の服にまた着替えていた。
もう、せっかい用意してくれたのに、ホントしょうがない奴だな……。
「お待ちしておりました! リムはお三方が戻って来るのを楽しみしていたのですよ!」
「いや、そんな気にするほど時間経ってないと思うんだけれど……」
「その通りでした。リムはビクニに感服なのです」
「そんな大袈裟な……」
それから、私たちがお風呂から戻ると、部屋にはリムが待っていた。
どうやらリムも別の場所でお風呂に入ったようで、彼女の髪や体からいい匂いがしていた。
それに着ていたフード付きのノースリーブから、ゆったりとしたダボダボの服へと着替えている。
私たちが用意してもらった服に似ていたけれど、リムの着ているやつは花の刺繡がしてあるものだった。
この服がこの里での普段着なのかな?
なんか民族的な感じで可愛い。
……なんて私が考えていると、リムが私たち向かって微笑みながらお辞儀をした。
あの右の拳を左手で掴む挨拶の姿勢で。
「さて、お三方。お食事の用意ができているのですよ」
「えっ!? ご飯まで用意してくれたの?」
「なのです」
どうやら私たちがお風呂へ行っている間に、ご飯を作ってくれていたみたい。
至れり尽くせりとはまさにこのことだ。
私の家は貧乏だから旅行とかしたことないけど。
もし、旅館とかホテルに泊まったらこんな感じなんだろうなぁ。
それからこの屋敷の大広間へと案内された。
そこにあった大きくて丸いテーブルの上には、凝った装飾が施してある食器が並んでいる。
そして、そのテーブルには一人の屈強な男が座っていた。
辮髪っていうのかな?
そんな感じの髪型に、武道着姿の無骨な顔をした人だ。
「ようこそお客人。私はこの武道家の里――ストロンゲスト·ロードの里長、エン·チャイグリッシュである」
エンと名乗った男は、腰かけていたイスから立ち上がって、私たちにあの右の拳を左手で掴む姿勢で胸を張った。
ちょっと待って?
チャイグリッシュってことは、もしかしてこの人がリムのお父さん?
全然似てないじゃん。
「リムから話は聞いている。我らが里は客人をもてなすのが流儀でな。どうかゆっくりとしていってくれ」
「は、はいッ! ありがとうございまする!」
うう……やはり人見知りの私はこういう場が苦手なので、つい変な言葉を使ってしまった。
そんな私を見て、ソニックとググが笑っている。
あんたら……笑ってんじゃねえッ!
それもこれもソニックがまとも挨拶しないからじゃん。
だから、私が頑張るしかないんじゃないッ!
そんな風に苛立っていた私だったけれど。
運ばれてくる料理の美味しそうな匂いを嗅いだら、すっかり機嫌が直ってしまった。
