第四十九話 前くらい隠せ
それから屋敷へと通された私たちは、まず今夜眠る部屋に案内された。
「大した部屋ではないのですが。どうぞ今夜はゆっくりと旅の疲れをとってくださいね」
リムは謙遜しているのかわからないけれど。
その部屋は私とソニック、ググ――。
二人と一匹には十分すぎるほど広い部屋だった。
なんでも、遠方から来た客人をもてなすために作ったものなんだそうだ。
今までも地方の貴族や王族が泊まることがあるとか……。
そんな由緒正しそうなところへ、私たちなんかを寝泊まりさせて大丈夫なんだろうかと、心配になってしまう。
だって、ソニックは吸血鬼族だし――。
ググは幻獣バグだし――。
私なんかただの中学生で、しかも陰キャの暗黒騎士だし――。
そんな不安を内心で抱えていると、ググが部屋にあった大きなベットへと飛び込んだ。
そして、その上でピョンピョン跳ねて嬉しそうにはしゃいでいる。
「こらっ! ダメだよググ!」
久しぶりにまともなとこで眠れるから気持ちはわかるけれど、そんなに跳ねたらベットにダメージが!?
私たちはリムのお情けで泊めてもらえるんだから、おいたはダメだよ!
私が捕まえようとすると、ググはその手をすり抜けた。
そして、リムの肩に飛び乗り、まるで私のことをからかうように鳴く。
「そんなに喜んでもらえてリムは光栄です」
リムはググの体を撫でながら、ニッコリと微笑んだ。
それを見た私は、なんだか畏まっていたことがバカらしくなって、張っていた緊張が緩んでいくのを感じた。
「さあさあ、そろそろお風呂の準備が整った頃だと思いますので、荷物はここへ置いてお風呂場へと参りましょう」
私たちは部屋に旅の荷物を置いて、リムの後をついていった。
リムのことを信用していないわけじゃないけれど、一応お金とソリテールの指輪などの貴重品は持って移動した(腕に付いた魔道具は外れないので当然一緒)。
それから風呂場へと着くとリムは、私たちのことをこの武道家の里――ストロンゲスト·ロードの里長に話に行くと言い、いなくなってしまった。
風呂場と聞いていたからもっとこじんまりしたものを想像していたけど。
そこは大浴場と言っていいくらい広い空間だった。
こんな大きなお風呂は、ライト王国で入った貴族しか入ることが許されない豪華なやつ以来だ。
「よし、じゃあ久しぶりの風呂を楽しむか」
「ちょっとソニック!? あんたも入る気ッ!?」
私の言葉を無視して、ソニックは一瞬で素っ裸になった。
おいおい、思春期の女の前でいきなり脱ぐやつがあるか!?
「ちょっとソニック! 前をちゃんと隠しなさいよ!」
慌てて言う私のことなどやはり気にせず、ソニックはググを頭に乗せて大きな浴槽へと飛び込む。
私は当然お風呂には入りたかったけれど、ここでまさかの混浴デビューには抵抗があった。
でも、よく考えたらソニックとはもう何度も一緒に寝たりしていたし――。
あとなんかウブな奴だと思われるのも癪だ。
こういうことでからかうのは、むしろ私のほうのはずなのに……。
そう考えると私は、「混浴くらいなんだ!」と思い、バサッと勢いよく服を脱いだ。
そして、用意されていた大きな布を、体に二重に巻いて浴槽へと向かう。
「なんか……怒ってない、お前……?」
ソニックは、まるでミイラのように布を巻きつけて浴槽に入った私を見て、明らかにたじろいていた。
それはググも同じでソニックに同意するかのように、湯に浮かびながら弱々しく鳴いている。
「別に怒ってなんかないよ! ああ~気持ちいい! 久しぶりのお風呂はやっぱり最高ッ!」
私はソニックたちの態度が気に食わなくて、必要以上に声を張り上げてしまっていた。




