第四十八話 武道家の里ストロンゲスト·ロード
「開門ッ! 開門ッ!」
野太い大声が聞こえる。
リムの後について門の中へと進むと、そこには彼女のやっていた――右の拳を左手で掴む姿勢で立っている男たちがずらっと並んでいた。
全員すごく屈強そうで、いかにも武道やってますといった感じのマッチョな人たち。
みんな武道着みたいなの着て坊主頭だし、この里の人たちのことを何も知らない私でも、すぐに何をしているかがわかる見た目をしていた。
「我々門下生一同が、リム·チャイグリッシュ嬢に拝謁いたします!」
その中の代表っぽい人が、前に出るとまた大声で叫ぶように言った。
そして、並んで立っていた屈強そうな男の人たちが、一斉に「リム嬢に拝謁いたします!」と、声を揃えて頭を下げる。
ひゃ~!
ここはファンタジーの世界じゃなかったのッ!?
これじゃまるで武侠小説の世界じゃないッ!?
それにしてもみんなリムのことを嬢って言って敬っているけれど。
もしかしてリムって、実はとっても偉い人なの?
門下生たちのぶっ飛んだ挨拶に私が戸惑っていると、リムは彼らに頭を下げ返していた。
「皆々様。こちらのお三方はワタシの客人なのです。今日は屋敷にお泊まりいただくので失礼のないようにお願いいたします」
それからリムがそう告げると、門下生たちは再び声を揃えて「はっ、リム嬢の仰せのまま」にと、また一斉に頭を下げた。
「なんかとんでもないとこに来ちまったな……」
どうやらソニックもこういう光景は初めてだったみたいで、私と同じように困惑しているようだった。
まあ、ソニックは魔族で吸血鬼族だから当然といえば当然か。
戸惑う私とソニックとは違い、ググは門下生の声を聞いて大きく鳴き返していた。
この子は幻獣ってのもあるんだろうけれど。
物怖じしないというか、肝が据わっているいうか……。
体だけじゃなくて心臓にも毛が生えてそう。
「それと、すぐにお風呂の準備もお願いなのです」
リムはそんな私たちなど気にせずに、さらに門下生たちへ頼みごとをしていた。
その様子は、まるでどこかのお姫様みたいだった。
リムの言葉に「はっ」と返事をした門下生たちは、また頭を下げる。
一体あと何回頭を下げるんだよ……。
ここじゃ当たり前なんだろうけれどさ。
そして、リムも彼らに向かって深々と頭を下げ返す。
「皆々様。いつもありがとうございます」
リムのその言葉に、門下生たちは一斉に「ありがたき幸せ」と、何度も揃えて頭を下げる。
……文化の違いかな。
私はこの里で暮らしていける気がしない……。
召喚されたところがライト王国でホントよかったよぉ。
「さあ、ビクニ、ソニック、ググのお三方。こちらへどうぞ」
リムがそう言うと、並んでいた門下生たちが、まるで陣形でも組むかのように動き始め、私たちに道を開けた。
そして私たちは戸惑いながらも、その道を通っていくのであった。




