第四十四話 増援
それからリムは傷ついたグリズリーへと近づいていった。
全身に噛まれた痕があるグリズリーは、すごくグッタリとしていて呻き声をあげている。
ポイズンアントの毒が体内に回っているのか、とても苦しそうだ。
そんなグリズリーに、微笑みながらそっと手を触れるリム。
すると、彼女の手が光り輝き始めた。
優しく暖かそうな白い光。
これは治癒魔法的な何かかな、と私が思ってると――。
「これでもう安心なのですよ。ポイズンアントの毒は取り除きました」
そう言ったリムは立ち上がって、また右の拳を左手で掴んで胸を張る。
「お前、リカバリーライトも使えるのか?」
ソニックはまた両目を見開いて驚いていた。
訊かれたリムは笑顔で「なのですよ~」と、独特の語尾で返事をした。
「ねえ、ソニック。リカバリーライトってなんなの?」
私が今の魔法の説明を求めると、彼はその驚いたままの顔で話を始めた。
リカバリーライトとは、状態異常を回復するの魔法。
それ自体はそんなにめずらしい魔法じゃないみたいなんだけど。
リムがさっき使った攻撃魔法を使える者が回復、補助系の魔法を唱えられることは、なんかすごいことみたい。
それこそ賢者と呼ばれる選ばれし者か、上位の魔族だけしかできない芸当なのだと、ソニックは言葉を続けた。
賢者ねぇ……。
私はどうも賢者と聞くと、あのしまりのない顔した男――メルヘン·グースが出てくる。
13~15歳の少女が最も強い魔力を秘めているとかで、魔力を込めた魔法陣――召喚の儀式を行い、私とリンリを呼び出したライト王国にいた大賢者だ。
私は、メルヘンに対してロリコン疑惑を持っているので(十中八九そうだ)、賢者と聞いてもどうもすごいと思えなかった。
私がそんなことを考えていると、グリズリーが体を起こして、リムの手をペロペロと舐め始める。
「よしよし。いい子なのです。今ご飯をあげますからね」
リムはそう言うと、腰に付けていた革のウエストバックから干し肉と水筒を出して、グリズリーに食べさせ始めていた。
それは、まるで大きな犬が長年付き添っているご主人様に甘えているような、そんな光景だった。
私はリムとグリズリーを見て、お婆ちゃんの言っていたことを思い出す。
「動物に好かれる人に悪い人はいないさね。ビクニもリンリも初めて会った動物にも懐かれやすいしねぇ」
そうだよね、お婆ちゃん……。
ソニックはなんか警戒しているみたいだけど。
リムは絶対にいい子だよね。
何も言わずに笑顔でリムとグリズリーを見ていた私。
そんな姿に何を思ったのか、ソニックは大きくため息をついた。
「うん? どうかしたのソニック?」
「別に。なんでもない……」
呆れた顔をしている彼の頭の上で、ググが嬉しそうに鳴いている。
ググもリムのことが気に入ったのかな?
「ところでビクニ様とソニック様は、どうしてこんな森の中にいたのですか?」
「さ、様はいらないよ。え~と、そそ、それはねぇ」
私はリムのことが好きになっていたけど。
やはり人見知りな性格のせいで言葉がどもってしまう。
「おい……早く逃げないとヤバいぞ!」
突然ソニックが怖い顔をして大声を出した。
もしかして、またモンスターが出てくるの?
「ポイズンアントだ! さっき数の比じゃない!」




