第四十三話 フードを被った少女
フードを被った女の子は、私の目の前に来ると、自分の手を差し出してきた。
えっ? こんなときに握手?
私はその手の意味がよく理解できずに戸惑っていると――。
「初めまして。ワタシの名はリム·チャイグリッシュなのです」
どうやらこんな状況だけど、フードの女の子は丁寧に名前をフルネームで名乗ってくれた。
私は手を握られて戸惑ったままだったけれど。
フードの女の子は気にせずに話し続ける。
「この先にある武道家の里ストロンゲスト·ロードに住んでいる者なのです。あなたのお名前はなんと言うのですか? 是非リムに教えてほしいのです」
握手を終え、手を離したリムと名乗った女の子は、左手で自分の右拳を掴み、胸を張って笑う。
この挨拶って……。
たしか図書館にあったDVDで見た……そうだ!
三国志ってやつで、中国人がやっていた挨拶に似てる。
「おいお前ッ! 今魔法を同時に唱えたよな!?」
飛んできたソニックがリムに声をかけていた。
何よ!
私の心配はしてくれないわけ?
彼の態度に、私は内心で苛立った。
それにしてもこのソニックの慌てよう。
この子が魔法を同時に唱えたことに驚いているみたいだけれど。
私のことを放っておくほどすごいことなの?
「さっきのがそんなにすごいの?」
私が訊くとソニックは、さっきのポイズンアントを吹き飛ばした魔法について話し始めた。
さっきリムが唱えた魔法は、ヘルフレイムという火の魔法とウインドラッシュという風の魔法を同時に放って、火炎竜巻を起こしたのだと言う。
ヘルフレイムって、たしかライト王国の宮廷魔術師の人たちが使っていたっけ。
ウインドラッシュってのは初耳だな。
「魔法を同時に唱えるには十年以上の修行がいるんだ。それをこいつ……この若さで……なにもんだよ」
ソニックは何故か警戒してリムのことを見ていたけど、彼女はニコニコ笑っているだけだった。
どうやらこの子。
とてつもなくすごい魔法使いみたい。
私と同じ年くらいなのに、ベテランじゃなきゃできない技術を使っているんだ。
「これは申し遅れました。初めまして。ワタシの名はリム·チャイグリッシュなのです」
「それは聞こえてたよ」
「この先にある武道家の里ストロンゲスト·ロードに住んでいる者なのです。あなたのお名前も是非リムに教えてください」
「だからそれは聞こえてたって言っただろうッ!」
ソニックが怒鳴り散らしたけれど。
リムはさっきと同じように、中国の武人文官がやりそうな挨拶のまま笑みを浮かべている。
なんか、ずいぶんとマイペースな子みたいだけれど。
危ないところ助けてくれたし、きっといい子だよね。
人見知りな私だけど、ここはちゃんとお礼を言わねば。
あと、ちゃんと自己紹介もせねば。
どうせソニックはそんなことしないだろうから、こういうことは今後も私が頑張らないとね。
「わ、私は雨野·比丘尼。ビビ、ビクニって呼んでね。で、こっちの翼があるほうは吸血鬼族のソニック……って、あれ? ソニックのフルネームってなんだっけ?」
「ラヴブラッドだよ」
「へぇ～そうなんだ。それでこっちの小さくて可愛いのがググ」
「大して興味ないのに訊くなよ!」
自己紹介に精一杯で余裕のない私は、ソニックの機嫌をそこねちゃったけれど。
そこは勘弁してよね。
「と、言うわけでよろしくです。リム·チャイグリッシュさん」
私たちの自己紹介が終わると、リムは挨拶の姿勢のまま丁寧に頭を下げた。
そして、またニッコリと笑う。
「リムことはリムとお呼びください。ビクニ様、ソニック様、ググ様」
「いやいや! 私たちのほうこそ“様”とかいらないから!」
そんな慌てて言う私を見たリムは、さらに嬉しそうに微笑んでいた。
