第四十一話 思い出すのは
私たちがグリズリーから逃げていると、突然後ろのほうからグリズリーの叫び声が聞こえてきた。
振り返るともうそこにグリズリーは見えず、私がホッと胸を撫で下ろしていると――。
「助かったな。音からするに、たぶんポイズンアントが出てきたみたいだ」
ソニックは吸血鬼族だけあってか、耳を澄ませばかなり遠くの音も聞こえるようだ。
それで彼が言うに、灰色熊――グリズリーは、ポイズンアントというモンスターに襲われているから、私たちを追って来れなくなったみたい。
ポイズンアントは、一匹一匹は子供の力でも倒せるほどの弱い魔物。
だけど、いつも集団で現れるため、遭遇するとかなりやっかいなモンスターなんだそうだ。
「それに毒も持っているしな。今の俺たちが噛みつかれたら、どうしようもない」
たしかに、私もソニックも、そして一応ググも、解毒の魔法は使えない(というよりも私は魔法自体を使えないけど)。
それに、毒を治す薬も持っていない。
襲われたのが、私たちじゃなくてよかった。
ヘタしたら毒で死んでいたかもしれないしね。
なんて安心していた私だったけれど――。
「おい、グリズリーが襲われているうちにさっさと行くぞ」
ソニックはそう言って前へと進んだ……けど……私は……。
「ねえ、ソニック。そのポイズンアントって子供でも倒せるくらい弱いんでしょ?」
「はぁ? お前、俺の話聞いてたか? 弱くても危険なのは変わらないんだ。相手にしなくていいんならそれに越したことない」
ソニックが言っていることはわかる。
たしかに正論なんだけど。
だけど……私は……。
「……ソニック。グリズリーを助けに行こう」
「はっ!? 何言ってんだビクニ!?」
ソニックは、さっき自分たちを食べようとしていたグリズリーを何故助けるんだと、大声で反論してきた。
言っていることはわかるんだけれど……。
でも、なんかうまく言えないんだけれど……。
私はそう思いながら、自分の手を見つめ、付けていた指輪を見た。
綺麗に輝く宝石、それはある少女の命――。
森の中にあった村で出会った女の子――ソリテール……。
彼女のことを思い出すと、なんだかいたたまれなくなる。
「ソニック! 私はねッ!」
声を出すと突然ググが、私の頭からソニックの頭の上へ飛び移った。
毎度のことながら、ググって丸々と太っているのに、何故か身軽で素早い。
なんか物理的法則を無視している。
まあ、ググは幻獣だからなのだろうけどさ。
それを見ると、やっぱりここはファンタジーの世界だよね、と思う。
ソニックの頭に乗ったググは、キュウキュウ鳴きながら彼にグリズリーを助けに行くように言っているようだった。
顔をしかめたソニック。
その後に、やれやれと言った顔で大きくため息をつく。
本人はイヤイヤだけど、しょうがないって助けてくれるときの顔だ。
「ちっ、わかったよ。だが、ちょっとでもヤバくなったら逃げるからな」
「うん。ありがとう、ソニック」
そして、ソニックは背中からコウモリのような翼を出した。
私も腕に付いた魔道具に念じ、暗黒騎士だけが扱える魔剣を出す。
すると、魔道具は魔剣へと変化し、私の手へと握られた。
私はソリテールのいた村でのことから、自然と魔道具を扱えるようになっていた。
それはきっと、私の力じゃなくてソリテールのおかげだ。
「ほら、さっさと行くぞ、ビクニ!」
「うん! アリなんかに私たちが負けるもんか!」
「キュウ~!」
ググも私たちの掛け声を聞き、続いて大きく鳴いた。




