第四話 選択の祠と大賢者メルヘン
その選択の祠というのは城の裏山にあった。
移動中に違う世界から来た私たちがめずらしいのか(たぶん着ている服のせいかな?)、多くの人の視線が私たちに集まっていた。
……こんなことなら、まともな服を着ていればよかったよぉ。
部屋で猫たちとゴロゴロしていた私の格好は上下黒の色褪せたスエットだ。
普段は近所のコンビニへ行くときもこの格好だけど、今はいかんせん目立ちすぎる。
こんな寝巻きのような格好を見られるなんて……ああ、穴があったら入りたい。
「ここだ。中には大賢者メンヘルも待っておるぞ」
そう言ったライト王は、とてもにこやかだった。
この人はさっきからずっと笑ってる。
きっとこのお爺ちゃんもとい王様は、国民から愛される優しい人なんだろうな。
……って、まだよく知らないのに。
やっぱり私ってチョロいのかな……。
それから、ファンタジー系のRPGに出てきそうな洞窟の中へと入っていく。
ちょっと前に図書館で借りた本に、今の私たちと似たような状況の話を読んだことがあったけど――。
大体こういうところに行くと、特別な力をくれるパターンだったような気がする。
きっとその大賢者とかいう人が、私とリンリにチート能力をくれるのかな?
……チート。
たしか本当の意味は、ズルとか騙すとかのそんなんだったっけ?
今ではあり得ない力に対して使う言葉なんだけど。
もし私たちみたいな、どこにでもいる女子中学生が世界を救えるのなら、やっぱりそれはズルだよなぁ。
選択の祠の中は、想像と違ってかなりキレイで明るかった。
所々に松明があり、地面にはレッドカーペットまで敷いてある。
まあ、これはこれでRPGに出てきそうだ。
「キャ～スゴい! まるで『インジャン・ジョーの洞窟』だね」
「それって、たしかマーク·トウェインだっけ?」
「え～ダレそれ知らない。そんなんじゃなくて『トムソーヤ島』だよ」
「リンリ、あんたにとってファンタジーはすべてディズニーか……」
脳内ディズニーランドの幼なじみに呆れながらさらに奥へと進んで行くと、通路のようだったところから大きく広い場所へと出た。
「ここが選択の祠から湧き出る奇跡の泉だ」
ライト王が言うように、その広がった空間には透き通った泉があった。
松明の明かりや周りの飾りのせいか、すごく雰囲気はあるけど、私から見たらただのキレイな水にしかみ見えなかった。
「召喚は無事に成功したみたいですね」
そこには男がひとりで立っていた。
私たちを召喚した部屋にいたおじさんたちとは違い、白いローブを着た若い男だ。
年齢は20代後半くらいかな?
ここに居るってことは、きっとこの人が大賢者――。
「もう知っているかもしれないけど、僕の名前はメンヘル·グース。一応大賢者なんて呼ばれている者だよ」
やっぱりだ。
それにしても賢き者と書いて賢者なのに、この人のしまりのない顔はなんなんだ。
そのせいか、ただの気のいいお兄ちゃんにしか見えないんだけど……。
そして、私たちもさっきよりも簡単な感じで自己紹介をした。
「あたし、晴巻倫理! よろしくね、メンヘル!」
「わ、私……雨野比丘尼っていいます……」
「うんうん、リンリにビクニか。予定通り二人とも可愛らし少女だね。こういう全然違うタイプの女の子二人が良かったんだよ。うんうん」
メンヘルは嬉しいそうに何度もひとりで頷いていた。
少女、女の子は良いなどと言いながら。
……やっぱりこのメンヘルとかいう大賢者……ロリコンなのでは?
本当に大丈夫か……この人……。
私がそんな不安を抱えている横では、メンヘルやライト王、そして兵士たちとガハハと笑い合っているリンリの姿が――。
まだ出会ったばかりだというのに、もう仲良くなったのか。
こういうのって才能だよね、私には無理だ……。
「じゃあ、リンリにビクニ。とりあえず服を脱いでもらおうか」
「えッ!?」
いきなり何を言い出すんだと驚く私の横で、リンリは着ていた学校の制服を脱ぎ始めていた。
