第三十八話 本来の力
私の言葉を聞いたソニックは、両目を大きく開いた。
そのときにできた隙を見逃さずにドリアードが操る枝は飛んできたけど、ググが鳴いて危険を知らせてくれたので、間一髪のところで避けることができた。
「危ないとこだったな。おかげで助かった、ググ」
「キュウ!」
ソニックがお礼を言うと、ググは誇らしげに鳴き返した。
当然ソニックが来てくれて助かったけれども、ググも居てくれて本当によかったと、改めて思う。
「それでビクニ、お前の考えってなんだよ?」
その後も、触手のように襲ってくる無数の枝を避けながら、私たちは話を続けた。
私の考えはこうだ。
前にソニックは、「本来の魔力さえ戻っていれば」とか「今の俺の魔力じゃ、たとえ夜になっても一回しか使えない」と、自分の魔法使用回数のことを言っていた。
だけど、その後に私の血を吸った彼は、一回しか使用できないと言った魔法をもう一度使ってみせた。
あのときのソニックは、私から大した量の血は吸っていないみたいだったし。
きっともっと吸血すれば、途轍もない強力な攻撃魔法が使えるようになるんじゃないかな。
「……というわけなんだけれども。どう、ソニック?」
私が説明の後に訊ねると、ソニックは表情を歪めた。
なんかあまり気乗りしていなさそう。
はっ! もしかして私の血って美味しくないんじゃ!?
「……お前はいいのかよ?」
「へっ?」
自分の血が不味いかもしれないとショックを受けていた私は、急に声をかけられたので、意図しない調子外れな声が出てしまった。
音感が良いと自称する私としては、少々恥ずかしい。
そんな私にソニックは言葉を続ける。
「リスクとかは考えないのかっ!? 大体俺は吸血鬼だぞ! 血を吸った後にお前を捨てて逃げるかもしれないだろ!?」
「逃げないよ」
私の返事を聞いたソニックは、何も言わずに黙った。
私はソニックの表情が見たかったけど、抱えられたまま高速で動いているため、今の彼がどんな顔をしているのかはよくわからない。
でも、私は言葉を続けた。
「なんで今さらそんなことを言うの? ソニックは私を捨てて逃げるわけないよ。さあ、早く私の血を吸って、あいつを……ドリアードをやっつけてっ!」
「っく!? わかったよっ! やればいいんだろ、やればっ!」
自分の気持ちを伝えると、怒鳴るように返事をしたソニックが、そのまま私の首に歯を突き立てた。
全身を流れる血液が、首に集まってきてる……ソニックが私の体から血を吸っているのがわかる……。
自分の体から緩やかに力が抜けていく感覚……。
前のときと一緒で全然痛みはなくて、何か心地いい……。
「キュウ、キュキュキュキュ～!」
私の意識がぼんやりしていく中で、ググが大きく叫んだ。
はっきりとしない視界をよく見ると、ソニックの体に無数の枝が絡みついている。
スピードを上げる魔法――ファストドライブの効果が切れちゃったんだ。
だけど……ソニック……。
信じていいよね……大丈夫だよね……。
朦朧とする意識の中で私に見えたもの――。
激しい炎を全身に纏った背の高い人物が、巨大な樹木――ドリアードを焼き尽くしていく光景だった。
