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第三十四話 村の真実

鳥の()れは気持ちよさそうにさえずり、リスが木のてっぺんまで素早(すばや)く走り(のぼ)る。


地面(じめん)から天に向かって()びる高い木々(きぎ)は、誰にも押さえつけられることもなく思うががままだ。


太陽(たいよう)の光がそれらの(えだ)()(さえぎ)られて、日光(にっこう)がまだらに私たちに当たっていた。


最初(さいしょ)にこの森に入ったとき――。


グリズリーに追いかけられていたのと、ライト王国から出たばかりで気が高ぶっていたせいで気がつかなかったけれども。


私のいた元の世界よりも、ずっと動物(どうぶつ)植物(しょくぶつ)()()きしているように見えた。


そして、どこからか(かす)かに花の(かお)りもする。


こんなの元の世界だったら、かなりのお金を出さないと見ることのできない大自然だね。


「いやいや、さすが異世界ファンタジーだわ。元の世界で貧乏人(びんぼうにん)だった私には、こんな体験(たいけん)一生(いっしょう)できなかったよ」


「ビクニ、お前ってなんか考え()んでいると思ったら、いきなり意味がわかんないことを言うよな」


ソニックはご機嫌(きげん)な私が気に入らないのか、皮肉(ひにく)めいた言葉をぶつけてきた。


しかしっ!


今の私はそんなことくらいではイライラしないよ!


だって、ソリテールみたいな可愛(かわい)くて性格(せいかく)まで良い子と出会えたんだもん。


旅の出鼻(でばな)はグリズリーに(くじ)かれたけど。


何はともあれ幸先(さいさき)はよさそうじゃない。


「……本当に残念(ざんねん)(やつ)だ」


「残念いうなぁぁぁっ!」


少し()を――さっきの言葉から時間差(じかんさ)でボソッと(つぶや)くように言ったソニック。


私は彼の体に全力の頭突(ずつ)きをお見舞(みま)いした。


すると、ソニックの(かた)に乗っていたググが、いつものように(うれ)しそうに「キュウキュウ」()いていた。


しばらく森の中を進んでいくと、ソニックのほうから話を()ってきた。


昨日(きのう)の夜にしていた木の精霊(せいれい)ドリアードの話だ。


「まだ途中(とちゅう)だったが、ちゃんと(おぼ)えているか?」


「まあ……ねえ。たしか人にあまり危害(きがい)(くわ)えない精霊だったよね?」


実は彼に言われるまで完全に(わす)れていたけどね。


「それと、たしか結界(けっかい)()って村を守っているとか、仲間割(なかまわ)れして死んじゃった盗賊(とうぞく)たちを復活(ふっかつ)させたとか」


「俺は復活させたなんて言っていないぞ」


「えっ?じゃあ、あの村の人たちは?」


「あれは魔法で作られた幻影(げんえい)だ」


それからソニックは、昨日の夜に私へ説明(せつめい)しようとしていた話を始めた。


彼が思うにあの村は、木の精霊ドリアードがソリテールの願望(がんぼう)を魔法によって形にして状態(じょうたい)なのだという。


おそらく盗賊たちに(ひろ)われて(そだ)てられたソリテールは、村中の人間が殺し合った後に一人生き(のこ)ってしまい、(さび)しさのあまりドリアードにお(ねが)いをしたのだろうと、ソニックは予想(よそう)していた。


「へえ、そうなんだ。それにしてもドリアードって良い精霊なんだね。すべてを(うしな)ったソリテールの願いを(かな)えてあげるなんて」


私は別に、村人たちが幻影だろうがなんだろうが、全然気にならなかった。


だって、ソリテールはちゃんと生きているんだから、何の問題(もんだい)もない。


「お前、やっぱりちゃんと話を聞いてなかったな」


ソニックがそんなあっけらかんとした表情をしていた私を見て、大きく「はあ~」とため(いき)をついた。


そして、私に(あき)れながら言葉を続けた。


「ドリアードは気に行った人間を見つけると女の姿で(あらわ)れて、相手を誘惑(ゆうわく)して木の中に引きずり込んでしまうことがあるって言っただろ?」


「えっ? それってどういうこと?」


「まだわかんないのか? だからあの娘は自分の(たましい)対価(たいか)にして、あの村を再現(さいげん)してんだよ。お前は村の中心にある巨大(きょだい)樹木(じゅもく)を見たんだろ? その木に石とか()まってなかったか?」


「あった……宝石(ほうせき)みたいなキレイな石がいっぱいあった……」


ソニックは、それらの宝石はすべてドリアードの誘惑に負けた人間の末路(まつろ)だと説明した。


あの巨大な樹木に埋め込まれていたものは、人間の魂を石にしたものだったんだ……。


ドリアードに魂を差し出せば、自分の願望を叶えてもらえる。


だけど、それはけして永遠(えいえん)ではなく、その(ささ)げた者の魂の価値(かち)によってその継続期間(けいぞくきかん)が決まると、ソニックが説明を続けた。


「たぶん、村を出たときの感じじゃ、今日には結界も村人たちも消えるな」


「じゃ、じゃあ……ソリテールは……」


「ああ。今日にはドリアードに引きずり込まれるだろうな……って、おいビクニっ!? どこ行く気だよ!」


「なんでもっと早く言ってくれなかったのっ!? ソニックのバカ!」


私は、ソニックを置いて一人で村へと走った。


……ドリアードの正体がそんなんだったなんて。


こんなことなら昨日の夜に話を聞いておけばよかった。


そうすればソリテールを助けられた。


でも、まだ……まだ間に合うでしょ!?


私がこの魔道具(まどうぐ)を魔剣に変えて、ドリアードの悪意(あくい)()っちゃえばソリテールを助けられるはずだ!

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