第三十三話 絶対にまた会いに来る
次の日の朝――。
目が覚めた私がベットから体を起こすと、なにやら食欲をそそるいい匂いがしていた。
そして前に見えたのは、ソリテールとソニックが朝食の準備をしている姿だった。
「キュウ!」
「うわっ! お、おはようググ」
まだ寝惚け眼の私に、ググが嬉しそうに飛び掛かってきた。
それを見たソリテールはニコニコと笑顔でいる。
だけど、彼女とは対照的にソニックはとても不機嫌そうだ。
まあ、いつもだけど……。
「ソニック、ソリテール、二人ともおはよう。もうご飯作ったの?」
「なに言ってんだ、この寝坊助は。もう昼だぞ。これは昼食だ」
うう……そうか、私は昼まで寝てしまっていたのか。
元の世界でのサボり癖に加え、ライト王国では散々怠惰な生活をしていたからな……。
やっぱり誰かに起こされないと昼まで寝てしまう体になっている。
「ソニックお兄さん。ビクニお姉さんはねえ。昨日料理の手伝いをしてくれたから、すごく疲れてたんだよ。だからそんな顔しないであげて」
苛立った顔をしているソニックへ、まあまあと和ませようとするソリテール。
ソリテールの話では、ソニックは彼女よりも早く起きて、一人で朝食を用意してくれていたみたい。
「朝ご飯はね、うさぎのお肉を食べたよ。ソニックお兄さんが森で取って来てくれたんだ。ホントはビクニお姉さんを起こそうと思ったんだけど。お兄さんが寝かせておけっていうから」
この仏頂面吸血鬼はまさか料理もできたのか?
うぐぐ、なんかよくわからないけど、途轍もなく敗北感を感じる。
……っていうか、ソニックの奴。
吸血鬼のくせに、なんでそんなに朝に強いんだよ!
「ふざけるなっ! そんな吸血鬼族なんて絶対に設定が間違っているよ! そんなの全然ファンタジーじゃない! それに昨日の私の頑張りが全部上書きされちゃったじゃない!」
「いきなりなに喚いてんだ! この使えない暗黒女が!」
「ああ～! ソニックが私のことを使えないって言ったぁ! 私はただ疲れて昼まで寝ていただけなのにぃ! 昨日初めて包丁を握って頑張ったのにぃ! 使えないって言ったぁぁぁ!」
「自分だけ疲れていたみたいに言うなっ! 俺だってこの娘だって疲れててもちゃんと起きてんだよっ!」
ソリテールは怒鳴り合う私とソニックを見て、急に大笑いし始めた。
そして、なぜかググまでも嬉しそうにベットの上でピョンピョン跳ねている。
「ハハハ! ビクニお姉さんとソニックお兄さんはやっぱり仲がいいんだね」
「どこが!?」
そんなソリテールの言葉に、私とソニックはユニゾン――同時に否定した。
なんか前にも、こんなやりとりがあったような気がする。
その後に朝食……いや、お昼ご飯を食べ終えた私たちは、村から出発する準備をしていた。
「そういえば、ソニック。なんで朝早く起きたの? 実はあまり眠れなかったとか?」
「別に……」
「まさか欲情を?」
「してねえよ!」
準備をしながらソニックをからかってみた。
何気に人をからかうのって楽しい。
私って、もしかしたらSかも。
「ビクニお姉さん……もう行っちゃうんだね」
準備を終えた私たちを見たソリテールが、悲しそうな顔をしていた。
たしかにソリテールと別れるのは寂しいけど、別にこれで会えるのが最後ってわけじゃない。
リンリを連れて帰ってきたら、絶対にまたこの村に来よう。
ソリテールって、絶対にリンリと相性が良い気がするんだ。
きっと私以上に……って、自分で言っておいてなんだけど、ちょっとへこむわ……。
「またね、ソリテール」
小屋から出た私は、屈んでソリテールの小さな体を抱きしめる。
そしたら彼女もぎゅっと抱き返してくれた。
だけど、黙ったままで何も返事はくれなかった。
「今度村に来るときは、私の友達も一緒に来るからね」
そう私が言っても、ソリテールはただ寂しそうな笑みを浮かべるだけで、やっぱり何も言葉を返してはくれなかった。
