第三十二話 木の精霊ドリアード
小屋を出た私は、ソニックの後を追って村の外れまで来ていた。
わざわざこんなに離れなくてもいいのにと思ったけど、彼なりに警戒してのことなのかと思って何も言わずにいた。
「よし、この辺でいいか」
「で、なにがわかったの?」
話を聞くに、ソニックは村のことを調べようと、この周辺を探索していたみたい。
まったく、またグリズリーと出会ったらどうするつもりだったのか。
いや、ソニック一人ならコウモリの翼で飛んで逃げられるか。
「それで、森を進んでいたら馬車が通れるくらいの広い道に出てな」
どうやらソニックはその広い道で、私たちがいたライト王国へと向かう商人の一行と会ったみたい。
それでソニックがこの村のことを訊ねてみると――。
「この村はな。なんでも盗賊たちの住処だったみたいだ」
ソニックが商人から聞いた話によると――。
この村は、ライト王国へ向かう旅人や商人を狙って襲う盗賊たちが作ったものだったみたい。
たしかに、豊かな国――ライト王国へ向かう人たちならお金になりそうな物を持っていそうだもんね。
村人たちも顔に古傷が残っていて物騒な感じだったし、その話は信じられる。
じゃあ、ソリテールも盗賊ってこと?
でも、そんな風には見えないけどな。
「だが最近に、村の盗賊たちは奪った金品のことで仲間割れを始めたらしい。それで盗賊たち同士の殺し合いが起こって、みんな死んでしまったみたいだ」
「えっ!? じゃあ、ソリテールや今いる村の人たちは?」
私が訊くと、そこからソニックの顔が引き締まったように感じた。
「ビクニ、お前。ドリアードって知っているか?」
聞いたこともない言葉なのか名前なのかを訊かれた私は、ソニックに説明を求めた。
――ドリアードとは、この世界に住む木の精霊の名前。
普段は人前に姿を現すことは滅多にないみたいだけど。
気に行った人間を見つけると美しい女性の姿を現し、相手を誘惑して木の中に引きずり込んでしまうことがあると、ソニックが教えてくれた。
「おそらくだが、この村はドリアードによって魔法がかけられている状態なんだろう。大体いくら小さいとは言っても、村の周りに結界を張るなんて芸当は人間の魔力じゃ難しいからな」
じゃあ、村の中心にあったあの巨大な樹木って……あれが木の精霊の本体ってことなの?
「それでなに!? 私たちはドリアードに殺されちゃうの!?」
慌てて喚く私を見たソニックは、手を前に出して「落ち着け落ち着け」と動かした。
そして、ドリアードは基本的には人間を襲うような精霊ではないと言う。
「そっか、それなら安心だね。じゃあ、もう寝に帰ろう。今日はもう色々と疲れちゃった」
「おいっ!? 話はまだ!?」
精霊の話なんて聞いたせいか、もうすっかり眠くなってしまった私は、ソニックのことなんか気にせずに小屋へと戻ってベットに入った。
ソニックはまだ話を続けたそうで、私の後を追って小屋に入って来る。
「だから、待てって」
小屋に入ったソニックは、ソリテールが眠っているからか小声になっていた。
「だって人は襲わないんでしょ? ならいいじゃない。続きは明日に聞くよ」
「お前なぁ……」
「それとも興奮して眠れないとか? はっ!? まさか私と同じベットに寝れると知って欲情を!?」
「お前なんかに欲情するか!」
ソニックは急に大声を出して怒っていたけど。
眠気が限界にきていた私は、そのまま眠ってしまった。




