第三十一話 初めての料理
小屋へ戻った私とソリテールは、早速料理の準備を始めた。
私は彼女と一緒に、すでに洗っておいたと言うキノコ類を切ることに。
「え~と、私、包丁を使うの初めてなんだけど……」
「大丈夫だよ。あたしがちゃんと教えてあげるから」
まず包丁を握る前に、気を付けるべきは姿勢みたい。
正しい姿勢でなければ、包丁を持つ手の妨げになるだけでなく、刃を直角に下ろしにくくなるため、ケガをしやすくなるからだとソリテールが誇らしげに説明してくれた。
「それでね。まっすぐ調理台の前に立ったら、こぶし一個分ほどあけて、両足を少し開いて立つんだよ」
次にソリテールは、包丁を持つ手の動きを邪魔しないように、使っている手側の足を半歩ほど後ろに引き、体を少しだけ斜めに構えるように私へ言った。
こうすることで、前屈みになったりぐらついたりすることが少なくなるみたい。
「ほらほら、ビクニお姉さん。また姿勢が悪くなっちゃってる」
「えっ? ああ、ごめんごめん」
どうも私は普段から姿勢が悪く、とても猫背なので意識しないとすぐに前屈みになってしまう。
それから、包丁は柄の付け根の部分から手の平で包み込むように、しっかりと握る。
人差し指と親指で中心を握り、残りの三本の指でしっかりと握ってしっかりと包丁を固定して、まな板の上に乗ったキノコを切り始める。
「わあ~ビクニお姉さん。とっても上手だよ~」
「そ、そうかな……」
「うん! とても初めて包丁を使ったように見えないよ!」
ソリテールがまるで自分のことのように褒めてくれる。
お世辞でも嬉しい。
これからの旅で自分で料理する機会も増えるだろうから、ソリテールに包丁の使い方を教えてもらえたのは運がよかったかも。
あのソニックに料理なんてできそうにないしね。
まあ、ただキノコを切っただけで、美味しいものを作れるようになるのは先の話だけれども……。
それからキノコを切り終えた私とソリテールは、小屋の外へ行き、焚き火の準備に取り掛かった。
ソリテールは用意してあった布袋を出し、中に入っていたたくさんの薪を一か所にまとめて落とした。
その中には、小さな枝や葉っぱも入っていた。
それらを重ね、火打石をカチカチと鳴らして火を付ける。
包丁を使ってきたときも思ったけど。
その様子は、彼女がずっと野外生活を続けてきたのだと思わせた。
慣れていない人間には、こうも簡単に焚き火を起こすことなどできない。
私よりもずっと小さいのに……この子は苦労して来たんだろうな。
そんなこと……全然感じさせないけれども……。
「すごいね、ソリテールって」
「うん? 普通だよ、ふ·つ·う」
外で火を付けるくらいのことは、この世界では常識なのかな?
さすが異世界ファンタジーとしか言えないけど、私にはあんな簡単に焚き火を起こせる気がしない。
そして、いよいよ村自慢の魚を焼くことに。
村自慢の焼き魚とは、魚に串を刺し、塩を振りかけた豪快なやり方だった。
「ああ! 忘れてた!」
ソリテールはそう言うと、さっき切ったキノコを小屋から持ってくる。
そして、これまた豪快に焼いていく。
「はい! 完成だよ!」
完成したものは、木で作られた皿の上に乗ったキノコと焼き魚。
私が切ったキノコはソリテールに比べて不格好だったけど。
出来立てというのもあってか、とても美味しそうだ。
「じゃあ、いただきま~す」
そして、私たちは料理に手をつける。
丸ごと骨まで食べられる焼き魚は、中はふっくらしていてとてもジューシーで、塩だけの味付けなのに凄く美味しかった。
生まれて初めて自分が作った料理というのもあったのだろうけれども、とても満足いくものだった。
「ソニックお兄さん……遅いね。先食べちゃったけど、大丈夫かな?」
たしかに遅い、遅すぎる。
まったく何をやっているんだよ、あの吸血鬼は。
せっかく私が料理作ったのに……って、ほとんどソリテールにやってもらったけど。
その後に、デザートとして果物を食べながらお話をして、私たちはもう眠ることにした。
ベットは一つしかないから、私とソリテールは一緒に寝ることに。
……って、もしかしてソニックがいたら三人で同じベットで眠るつもりだったのか?
まあ、大きさは十分三人で眠れるけど……。
そんな……私……いきなり男の子と同じベットで寝るなんてハードルが高すぎるよ!
「おい……おい、ビクニ」
「へっ?」
私が一人で狼狽えていると、小屋の扉の前にソニックの姿が見えた。
「ちょっと、ソニック! 一体どこに行っていたの!?」
「静かにしろって、そいつが目を覚ますだろ」
言われて横を見ると、ソリテールがスヤスヤと天使のような寝顔で眠っている。
ググも彼女に寄り添うように寝ていて、とても気持ちよそうだ。
いやいや、この子もググも本当に可愛いですね。
「ここじゃまずい。外へ来いよ」
「えっ? なにがまずいの?」
「お前、この村が滅んでいたって説明しただろうが」
ソニックは小声で私にそう言うと、静かに扉を開けて小屋を出て行った。
そんな言い方で伝わると思っている彼になんか苛立つ。
それに、私はもう寝に入っていたので、億劫だったけれども。
ソニックが何を調べていたのかを気になっていたので(さっきまで忘れていたけど)、しょうがなく外へ出ることにした。




