第三話 大勢の前で自己紹介
頭には王冠、着ている服は何やら豪華な装飾の付いたもので、見るからにこのお爺ちゃんが王様だろう。
「わしがこの国、ライト王国の王、ウイリアム=ライト28世だ。異世界の少女二人よ、その顔をよく見せてはくれぬか」
「いいよ!」
リンリは堂々と、しかもタメ口でライト王の前に仁王立ちする。
おまけに、なぜかドヤ顔だ。
こういう誰が相手でも物怖じしないところは羨ましい。
私は、そんなリンリの影に隠れながら、ビクビクと怯えて顔を覗かせた。
そんな私たちを見て、ライト王はニッコリと微笑む。
第一印象は、厳格で怖そうなお爺ちゃんと思ったのだけれども、この笑顔を見て本当は優しい人なのかな? って思ったり。
……って、私って案外チョロいな……なんて考えたり……。
「さて、まずは事情を説明せねばなるまい、このライト王国、さらにはこの世界は今、滅びへと向かいつつある」
ライト王の話をまとめるとこうだ。
以前、この世界ではモンスターと人間――様々な種族が、仲良く共存していた。
だが現在、大人しかったモンスターたちは突如として暴れ始め、他の種族も自分の国を守るために多種族と友好関係を持たなくなってしまった。
そこで、この国――ライト王国に住む大賢者メルヘン·グースが、モンスターが暴れ出した原因を見つけるために旅に出ようとしたそうだ。
「それで、どうしてあたしたちが呼び出されたの?」
リンリが、私が一番聞きたかったことを訊ねてくれた。
頼りになる幼なじみである。
「それはな――」
ライト王が、穏やかな顔で説明を始めてくれた。
なんでも大賢者メルヘンによると、13～15歳の少女が最も強い魔力を秘めているので、その賢者の魔力を込めた魔法陣――召喚の儀式を行い、私たちが呼び出されたみたい。
……って、その大賢者ってロリコンじゃないの……。
しかも、13～15歳ってのが絶妙にキモい……。
女の私でも、大人の男が女子高生と付き合いたいのはなんとなくわかる。
女子小学生と聞くと、キモいとか思うよりは、病気というか病んでいる感じがする。
そう……。
女子中学生ってところが絶妙にキモい……。
大丈夫か、その大賢者……。
ちなみに、私とリンリがなぜこの世界の人の言葉が理解できるのかを訊くと、召喚時に溢れた大賢者の魔力のおかげみたい。
……なんか都合が良すぎる気がするけど、まあいいか。
「よし! 事情はわかったよ。ふふ、すべてあたしたち二人に任せちゃって!」
「えぇぇぇッ!?」
驚く私を無視して、ライト王が玉座から身を乗り出す。
「やってくれるのか?」
その言葉に、リンリは右手を前に出し、その手の親指を天井に突き立てて返した。
「あたしとビクニが来たからにはワンパンよ、ワンパン」
そして、得意のワンパンを連呼し、何もない空中にシュシュッとジャブの連打を打ち始める。
まったく一国の王様の前だというのに、なぜそんなに上から目線でいられるのか……。
ライト王が気難しい人だったら、速攻で首をはねられちゃうくらい失礼な態度だよ。
それでもライト王は、穏やかで優しい口調で私たちに接してくれていた。
「では、異世界の少女たちよ。二人の名を教えてはもらえぬか?」
リンリは待ってましたとばかりに、握り込んだ拳――その両手を高く突き上げる。
「あたしの名は晴巻倫理! この世界を救う14歳の女の子だ!」
……どこの海賊王だと言いたいくらいの自己紹介だった。
でも、ライト王も周りにいる大臣や護衛の兵士たちは、みんな歓喜の声をあげている。
こういうテンションが、異世界ではウケるの?
……私、ここでやっていけるか……?
「ほら、次はビクニだよ!」
そう言って私の背中をバシバシ叩くリンリ。
あんたの後じゃやりづらいよ……。
「え～と、わ、私は……その……」
ライト王も大臣も兵士たちも、みんな私に注目している。
うぅ……なんかお腹が痛いし、気持ち悪くなってきた。
「わ、私の……名前は……雨野比丘尼……です……」
ボソボソと呟く弱々しい自己紹介。
私は、さっきリンリが盛り上げた空気が冷めていくのが怖かったが――。
「うむ、リンリとビクニと申すのだな。皆の者! この勇気ある異世界の少女二人を称えよ!」
ライト王が号令をかけると、地響きがするくらいの歓声が始まった。
リンリは、指でVサインを作ってみんなに応えている。
私は安心すると同時に、こんな歓声を浴びた経験がないので完全に委縮してしまっていた。
「それでは、これから選択の祠で洗礼を受けてもらおう」
固まっている私のことなど気にせず言うライト王。
そして、私とリンリをその選択の祠というところへと連れていった。
