表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/215

第二十九話 小さな嘘

「なにそれ? 一体どういうこと?」


私はソニックが言っている意味(いみ)がよくわからなかった。


だって、村が(ほろ)んでいたのなら、こうやって小屋に()めてもらうことなんかできるはずがない。


周りの小屋もそりゃライト王国の家と(くら)べたら貧相(ひんそう)だけれども、立派(りっぱ)に人が寝泊(ねと)まりできるし、それにソリテールだっているし……。


「まだわからない……が、ちょっと調(しら)べる必要はありそうだな」


「調べるって……だからソニック、あんたさっきからなにを言ってんの!?」


「とりあえずお前はあのソリテールって(むすめ)と一緒にいろ。だが、けして油断(ゆだん)するなよ」


ソニックはそう言うと、小屋から出て行ってしまった。


「ちょっと!? ソニック!? 待ちなさいってばっ!?」


私が彼を追いかけて小屋の外に出ると、そこにはソリテールが(もど)って来ていた。


「あれ? どうしたのビクニお姉さん? それとソニックお兄さんはどこへ行くつもりなの?」


()っていくソニックの(うし)ろ姿を見たソリテールが(たず)ねてきたけど、私はうまく答えられずにいた。


それは、この状況(じょうきょう)をどう説明(せつめい)していいかわからなかったからだ。


だっていきなり「この村は滅んでいたみたいだから、それを調べるって」なんて言ったら、おかしいでしょ?


もしソニックの勘違(かんちが)いだったら、せっかく(もう)し出てくれたソリテールの厚意(こうい)(どろ)()ることになっちゃう。


でも、あのソニックのただならない様子は、身の危険(きけん)を感じてのことだし。


あぁぁぁ! 私はなんて答えたら正解(せいかい)なんだよぉぉぉ!


コミュニケーション障害(しょうがい)――(りゃく)してコミュ障の私には(むずか)しすぎるぅぅぅ!


「……ビクニお姉さん。大丈夫?」


両手で頭を(かか)え、(はげ)しく(もだ)えていた私の(そば)で、ソリテールが心配いそうな顔をしていた。


……まずい。


とりあえず落ち着いて考えないと……。


だけど、こんなときは一体どうすればいいのか――。


(こま)ったときは適当(てきとう)でいいんだよ。誰も(きず)つかなければ問題(もんだい)な~い!」


そのとき、私の頭の中で、以前にリンリが口にしていた言葉が再生(さいせい)された。


そうだよ。


別にソニックが出て行ったって問題になるようなことはないし、ここは適当なことを言っても大丈夫なはず。


「ソ、ソニックはね。ちょっとトイレへ行ってくるって」


「そうなの? 川ならこの村にもあるから、わざわざ森のほうまで行かなくてもいいのに」


「それがあいつ、実は貴族出身(きぞくしゅっしん)だから、人に音を聞かれるのをすごく(いや)がるんだよ。まったく男なのに気にしすぎだよね」


私はその場で思いついたことをベラベラと(しゃべ)り続けた。


どうやら、その話をソリテールは信じてくれたみたいで助かったけど。


正直、私はこういう適当な嘘をつくのは苦手(にがて)だ。


というか、非常(ひじょう)精神(せいしん)(けず)られる。


前に元の世界の図書館で借りた夏目漱石(なつめそうせき)の『明暗(めいあん)』を読んだとき――。


嘘をつくなんて人間関係には当たり前だ、みたいな台詞(せりふ)があったけれども。


私がコミュ障なのは、その場の空気を読んで嘘をつくのが下手(へた)だからか?


漱石先生……もしそうなら今後私が上手(じょうず)な嘘をつけるようにしてください。


そして、小さな嘘をついたくらいで(むね)(いた)まない強い心をください。


……って、夏目漱石は別に神様じゃなのに、私は何を思っているんだか。


(われ)ながら自分に(あき)れてしまう。


「お姉さん、ビクニお姉さん」


「は、はい!」


し、しまった。


つい、いつもの(くせ)で自分の世界に入ってしまっていた。


(ばあ)ちゃんとリンリは、それを悪いなんて言わないけど。


やっぱり他人との会話中に、妄想(もうそう)をし出すなんておかしいことだよね。


反省しなきゃ……。


「ビクニお姉さん……なんか元気ないね?」


「そ、そんなことないよ! 元気、元気! 元気いっぱいだよ!」


バカ野郎!


元気なわけあるか!


だけど、ソリテールに(つみ)はない。


それでも、また嘘ついたせいで精神が削られていく。


しかし、悪いのは全部うまくやれない自分せいなのだ。


「そうならいいんだけど……でも、元気がないときはちゃんと言ってね。ビクニお姉さんが言ってくれないとあたし、気がつけないから」


ソリテール……。


あんたはなんていい子なんだ。


お姉さんは(なみだ)(こら)えるのに必死(ひっし)です。


「キュウキュウ!」


私の(かた)に乗っていたググが()くと、ソリテールが笑顔で私の手を引いた。


そして、そのままここの案内すると言って、村の中心へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ