第二十四話 運命 偶然 感謝
ラビィ姉がライト王に話をした後――。
私はソニックのことを捜しに、毎日城下町へと繰り出していた。
もちろん幻獣バグも一緒。
今や私の肩や頭はバグの指定席になっている。
バグは子猫ほどの大きさで、体重もやたら軽いので、いくら乗られていても大して苦にはならなかった。
「はあ～今日も見つかりそうにないなぁ」
「キュウ……」
私が大きなため息をつくと、バグも同じように息を吐いた。
朝から捜して、もう陽が沈み始めたというのに、今日も何の手掛かりも見つけられなかったからだ。
「やっぱり、こんな大きな街で少年一人捜すのは無理があるのかな……」
「キュウ、キュウ……」
弱音を吐いた私に向かって、バグも「そうかも」と言っているような鳴き声を返してきた。
ライト王国は城を中心に街が広がっていて、かなり大きな都市だ。
この都市は、高く大きな壁によってすっぽりと囲われているため、この国から出るには必ず兵士が見張る門を通らないといけない。
ライト王もソニックを捜しているから、王国から出ようとすればすぐに見つかるはずなんだけど、どうもまだ彼らしい人物は発見されていないみたい。
「それにしてもあなたとソニックはどうやってこの国に入ったの?」
私は頭に乗っていたバグを抱きかかえ、質問してみたけれども、ただ「キュウ、キュウ」と嬉しそうに鳴くだけだった。
まあ、バグは商人が運んでいる馬車の荷物に紛れ込んでしまったとかかな。
ソニックはきっと、あのコウモリみたいな翼で飛べば簡単に王国内に入ることができるよね。
……ってことは。
もうソニックは壁を越えて飛んで行っちゃったのかも!?
もしそうだったら私……お礼もちゃんと言えてないのに……。
そんなことを考えながら私は、選択の祠がある城の裏山へと向かっていた。
奇跡の泉へ行けば、もしかしたら女神様の声が聞けてソニックの居場所を教えてもらえるかもしれないと思ったからだ。
……まあ、そんなに都合のいい女神様じゃないけどね。
私がピンチのときだって、何も助けをくれなかったし。
まったく役に立たない……って、いかんいかん、いかんぞビクニ!?
いつもの悪い癖が出ちゃってるよ!
せっかく異世界へ召喚されて救世主に選ばれたんだから、もう少し自重しないと……。
って、今さらながらだけど暗黒騎士……。
実は闇落ちする騎士とかそんな設定じゃないよね?
突然悪の誘惑みたいなものに負けて悪い奴の手下になったりしないよね?
「キュウ、キュウ～!」
私が頭を抱えていると、肩に乗っているバグが満足そうな鳴き声をあげた。
もしかして、バグが私に懐いているのはこの悪癖があるからでは?
バグは人の悪い心を食べるっていうし……って、それが理由だったらなんか素直に喜べない。
そして、私は洞窟のような祠内を進み、奇跡の泉の前に到着した。
広がった空間には透き通った泉。
松明の明かりや周りの飾りのせいか、すごく雰囲気があり、前は余裕がなかったからそう思わなかったけど、元の世界にこの場所があったらパワースポットとして観光客がいっぱい来そうだなと思った。
私が泉に近づいていくと、そこには人影が見えた。
どこか見覚えのある姿に、私がその近づいて行くと――。
「お、お前!? なんでここにいるんだよ!?」
人影はソニックだった。
私はこの運命のような偶然に感謝しつつ、笑みを浮かべながら両手を大きく広げて彼に近寄っていった。
「ふふふ、ソニック見つけたよ～。散々捜し回ったんだからねぇ～」
そんな私の姿を見たソニックは、まるでおぞましい屍でも見たかのような表情をしていた。
「さあ～、私と一緒に来てもらうよぉぉぉっ!」
そして、どうしてなのか、突然「うわぁ～!」と叫びながら逃げて行ってしまった。
何故ソニックが走り出してしまったのかがわからない私は、とりあえず彼の後を追いかける。
でも、やっぱり私の足の速さじゃ追いつけないから、ドンドン距離が離れてしまう。
「また捕まってたまるかっ!」
何か勘違いしているソニックが、祠の出入り口の目の前に着くと――。
「さっき城から見えたから呼びに来てみれば……こんなことになっていたっすか」
そこにはメイド服姿のジト目――ラビィ姉が立っていた。
「ラビィ姉! ソニックを止めて!」
「へっ! 今はもう夜だぜ。俺を止められるもんか!」
ソニックはそう言うと、あのスピードが上がる魔法――ファストドライブを唱えた。
もはや速過ぎて、彼の姿は私には確認できなくなる。
……けど。
「がっ!? な、なんで……?」
ラビィ姉が、そんな高速で動くソニックにプロレス技であるラリアットを喰らわせて止めた。
ラリアットを喰らったソニックは自分のスピードが速過ぎたのもあって、喰らった瞬間に激しく回転し、そのまま地面に叩きつけられてしまう。
「キャ～! ソニック、ソニック! しっかりしてっ!」
「ああ……ああ……」
叩きつけられたソニックは、泡を吹きながらピクピクと痙攣していた。
「ちょっとやり過ぎたっすね。でもまあ、止めれたからいいか。さあ、ライト王様のところへ連れて行くっすよ」
私は、こないだのバグが暴走したときに、もしかしたらラビィ姉一人で止められたんじゃないかと、冷や汗を掻きながら思った。
そんな私の近くで、バグが泡を吹いているソニックの顔に、自分の顔を擦らせながら嬉しそうにしていた。
