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第二十三話 断罪されるメイド

「なんで!? なんでラビィ姉が国を出なきゃいけないのっ!?」


玉座(ぎょくざ)の間にいた全員が言葉を(うしな)っていた中で、誰よりも早く声を(はっ)したのは私だった。


大声で(わめ)く私を見て、(そば)にくっついていた幻獣(げんじゅう)バグが(ふる)えながら(つぶや)くように()いていた。


説明(せつめい)を――ラビィ姉が国を出る理由を話す前に、私は何度も声をかけ続けた。


だってラビィ姉はライト王もこの国のことも大好きなのに、どうして出て行かないといけないのかが理解できなかったからだ。


だけど、私以外のみんなはラビィ姉の言い出したことをわかっている――(さっ)しているようだった。


「ビクニ。いきなりそんな大きな声を出したからバグが(こわ)がっているっすよ」


(かが)んでいたラビィ姉が立ち上がると、震えているバグを()きかかえて、落ち着かせようとしていた。


そのおかげでバグの震えは止まったのだけれども、ラビィ姉の(うで)の中でまだ悲しそうに鳴いている。


ラビィ姉はそんなバグに悲しそうな笑みを向けて床に下ろすと、玉座(ぎょくざ)(こし)かけているライト王の前で(ふたた)び屈んだ。


ライト王は、そんなラビィ姉に、なんて声をかけたらいいのかわからない、といった表情を向けている。


「今回のことでようやくわかったんっすよ。うちはこの国――ライト王国の異物(いぶつ)だってことを……」


それからラビィ姉は、さっき私が喚いたせいで伝えられなかった説明を始めた。


普段(ふだん)は人前には出ず、大人(おとな)しいはずの幻獣バグが(あば)れる原因(げんいん)となったのは、すべて自分に責任(せきにん)がある。


無駄(むだ)に人を(うたが)い、証拠(しょうこ)もない者を犯人(はんにん)にしようとした行為(こうい)が――。


ただ吸血鬼(きゅうけつき)族というだけで、大した(つみ)(おか)していない少年を処分(しょぶん)しようとしたことが――。


それら自身の悪意(あくい)によって、この騒動(そうどう)()きたのだと。


本来(ほんらい)ならライト王様――さらには皆の前ですぐにでも自害(じがい)するべきだと思ったんすけど……この国の(やさ)しい人たちはそれを(よろこ)ばないと思ったっす」


「なっ!? そんなの当たり前じゃない!」


ライト王に頭を下げながら話すラビィ姉に向かって、私は食って()かった。


だって、そんな全部ラビィ姉が悪いみたいなことは誰も思っていないし、実際(じっさい)にそんなことないもん。


「ラビィ姉は悪くないよ!」


「でも、ビクニ……。うちがいなかったらバグが悪意を()うことはなかったっすよ。この国の人たちはうちみたいに悪い心を持っていないっすから……」


「それを言うなら私が持っていた魔道具(まどうぐ)のせいじゃん! あれがなければバグだって暴走(ぼうそう)することなんてなかったっ!」


そう……そうだよ。


だって幻獣バグは元々人の悪い心を食べるのが普通(ふつう)なんだ。


だからバグが暴れた原因はこの魔道具のせい。


「ビクニ……これはケジメなんすよ。それに、うちがこの国にいたらまた同じようなことが起こるかもしれないっす」


「そんなの(いや)だよ! だってラビィ姉はこの国のことも住んでいるみんなのことも大好きなのに……そんなのぜぇ~たいに納得(なっとく)できないっ!」


「ビクニ……」


自分でも、ただの子供の理屈(りくつ)だってことはわかっている。


ラビィ姉の、国を心配するからこそという気持ちも理解している。


けど……だけど、やっぱりそんなのおかしいよ。


自分が()たいところに居れないなんて……。


だってラビィ姉はライト王のために……国のみんなのために、(みずか)らそういう悪い(やく)をやっていたんだよ。


「ラビィよ……言いたいことはよくわかった」


駄々(だだ)をこね続ける私を止めるように、ライト王が玉座から立ち上がった。


そのときのライト王はすごく迫力(はくりょく)があって、私は何も言えずに(だま)ってしまっていた。


ライト王は何を言う気なんだろう。


まさかラビィ姉が出て行くのを(みと)める気のなの……?


そんなのダメ……絶対にダメだよ……。


「では、ライト王国の王――ウイリアム=ライト28世として言い渡す。ラビィ·コルダストよ。そなたはこれから毎朝教会へ(おもむ)礼拝(れいはい)をすること。そして、これからも()が国のために(はたら)いてもらう。この国を出ることなどけして(ゆる)さぬ」


「ラ、ライト王様……」


ライト王は、ラビィ姉へ国に残るように言った。


そして、屈んでいるラビィ姉の傍へと近寄(ちかよ)っていく。


善良(ぜんりょう)であるということはときに人を傷つけることがあると、わしも(まな)ばせてもらった。ラビィ、ずっと無理をさせていたようですまぬな。これからはわしもこの国の皆も、全員でよく考え、よく話し合い。ただ善良(ぜんりょう)でいればいいと、胡坐(あぐら)をかかないようにしていこうと思う」


震えるラビィ姉へ、ライト王は優しく、そして(おだ)やかに言葉を続けた。


「ラビィ……わしの傍に……この国に居てくれ。我らにはそなたが必要なんだ」


「……は、はい。う、うちはメイドとして、ライト王様の傍を(はな)れないっす……この国からも出ていかないっすよ……」


そして、ライト王に抱きめられたラビィ姉は、涙を流しながら(うれ)しそうに返事をした。


私も、そんな二人の姿を見て、涙が止まらなくなった。


「よかった……本当によかったよぉ」


(あふ)れる感情のせいか、涙ともに言葉までも出てしまっていた。


周りにいた兵士たちは、そんな私を見て笑っている。


そして、悲しそうに鳴いていたバグが、いきなり嬉しそうに大きく鳴き声をあげた。

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