第二十二話 消えた吸血鬼の少年
その後――。
兵士や宮廷魔術師たちの治療や、城の修理が速やかに行われた。
特にラビィ姉のケガは酷くて、幻獣バグがいかに凄まじかったのかがわかる。
だけど、幸いなことに命に関わるようなことや、後に残る傷はなかったみたいだし、何よりも前のバハムートが襲ってきたときとは違って、今回は誰も死ななかったことが私にとっては一番嬉しいことだった。
次の日になると、街のみんながバグが暴れたことを知ったみたいで、住民全員で復旧と復興作業を手伝ってくれた。
……って、いっても、私は疲れ切って眠っちゃっていたから後で聞いた話なんだけど。
なんにしても、やっぱりこの国の人は良い人しかいないよね。
あの王様が王様だから当然だけど。
「ビクニ。お前のおかげでこの国、ライト王国は救われた」
起きてから数日後、玉座の間に呼び出された私は、ライト王に褒められていた。
ライト王は、まるで自分の孫が運動会の徒競走で一等賞を取ったみたいな笑顔をしている。
周りにいた兵士たちも、ライト王に負けず劣らず、みんな自分のことのように私の活躍を嬉しそうにしていた。
なんか王国が救われたことよりも、私が暗黒騎士として頑張ったことのほうを喜んでいるみたい。
私にはお婆ちゃんしか家族がいないけど。
お爺ちゃんや親戚の人に褒めてもらうってこんな感じなのかな。
「幻獣バグはすっかりお前に懐いているようだな」
ライト王が笑みをそのまま、私の後について来ていたバグに見て言った。
私がこの子の悪い心を吸収してからなんかすごく好かれちゃって、なんかずっとくっついて離れないんだよね。
まあ、小さくて可愛いからいいけど。
「幻獣バグよ。お前もビクニが好きか?」
「キュウ、キュウ」
バグは、はしゃぎながら嬉しそうにライト王へ鳴き返した。
返事をされたライト王も嬉しそう。
「ときにビクニよ。今日来てもらったのはお前を労うためだけではないのだ。あの吸血鬼族の少年……彼がどこへ行ったのか知っておるか?」
ライト王にソニックのことを訊ねられたけど……。
私も彼がどこへ行ってしまったのかを知らない。
ソニックはバグを止めた後――。
気を失っていた私を抱え、みんなの前に運んでくれた後に、何も言わずに姿を消しちゃったからだ。
「ごめんなさい、ライト王。私もソニックのことはわからないの……」
「そのことに関して、ビクニが謝るようなことではない」
頭を下げた私を見たライト王、両眉を下げた困った表情になって言葉を続ける。
「私は彼に感謝と謝罪をしたいのだ。もし彼がこの国に訪れていなかったら、さらに酷い損害を被っていたはずだからな」
そうだ……そうだよ。
ソニックは、私の魔道具を盗んだ犯人にされそうになっていたんだ。
まあ、たしかに一度は盗ったけど。
それを抜きにしても彼がやってくれたことは、私にとっても英雄的だったよ。
私も……ソニックに“ありがとう”って、直接会って言いたい……。
玉座の間の空気が重くなっているときに、突然扉が開いて中に人が入ってきた。
「ライト王様。急な拝謁、誠に申し訳ないっす」
それはラビィ姉だった。
まだ全身包帯だらけだけど、もう自分の力で歩けるまで回復したんだ。
相変わらずのジト目、それにメイド服に包帯だらけって、なんかアニメのキャラクターっぽいなって思った。
ラビィ姉の姿を見たライト王も兵士たちもみんな笑顔になり、さっきまで部屋を覆っていた重い空気が急に明るくなる。
元気になったラビィ姉の姿を見た私は、嬉しくなってその体に勢いよく抱きついた。
「っく!?」
「あっ! ごめんね。まだ傷が痛むよね」
私に抱きつかれたラビィ姉は、笑みを浮かべてはくれたけど。
やっぱりまだ完全回復ってわけではなさそうだった。
ラビィ姉は、そのまま笑顔で私には何も言わずに、玉座に座るライト王の前へ行って屈んだ。
「不躾で、その上続けて申し訳ないっすけど。実はうち……ライト王国から出ようと思っているっす」
ラビィ姉の言葉に、せっかく明るくなった玉座の間の空気が一瞬で固まってしまった。
