表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/215

第二百十話 ここはファンタジーの世界

空から落ちてくるビクニを見て、彼女の体を受け止めようと走り出す者たちがいた。


その集団(しゅうだん)の中にリムもいたが、(きゅう)に足を止めてしまい、その場に両膝(りょうひざ)をつく。


体力の問題(もんだい)もあったのだろう。


今の自分では、落ちてくるビクニを受け止めることはできないと(さと)ったのだ。


「ビクニ……やっぱりあなたはすごい人なのですよ……」


(つぶや)くように言うリム。


彼女は落ちてくるビクニを見上げながら、(なみだ)(なが)して笑っていた。


「リムはあなたが生きていてくれて……本当に(うれ)しいのです!」


そしてリムは膝をついたまま、彼女の(あと)挨拶(あいさつ)姿勢(しせい)をとり、空に向かって(さけ)んだ。


そんな彼女を置いて、ライト王国の兵や武道家(ぶどうか)の里の者――。


さらには海の国の住民や亜人(あじん)たちもビクニのことを受け止めようと、空を見上げながら走っている。


その集団を後ろから()()し、誰よりも速く()けていく者がいた。


「ビクニィィィッ!」


ライト王国の暴力(ぼうりょく)メイドと呼ばれるラビィ·コルダストだ。


ラビィはこの役目(やくめ)だけは誰にも(ゆず)れないとばかりに、(きず)ついた体を(ふる)い立たせていた。


落下(らっか)しているビクニの姿(すがた)はかなり(とお)くだ。


だが、距離(きょり)はあるが受け止められる――いや、(かなら)ず受け止める。


ラビィは(いき)を切らし、そう思いながらひた走っていた。


そして、落ちてきたビクニをギリギリのところでその両腕(りょううで)でキャッチ。


しっかりとラビィの腕に()かれたビクニは、ウトウトした表情(ひょうじょう)で彼女の顔を見た。


ラビィはそんな彼女に微笑(ほほえ)みを返す。


「ビクニ、よくやったっすよ」


「ラ、ラビィ姉……?」


自分を抱いているのがラビィだと知ったビクニは、彼女の(むね)の中で泣きじゃくる。


ラビィはそんな彼女を(ふか)く抱き締めた。


ビクニの顔を自分の顔を寄せ、ただ泣いている彼女をあやすように。


よしよしと、泣いている彼女へ(あたた)かい抱擁(ほうよう)と言葉を(おく)る。


それでもビクニは泣き(わめ)き続けた。


自分のせいでソニックとググが死んでしまった。


彼らを(まも)れなかった。


いつも守られてばかりで最後(さいご)までそうだったと。


ラビィは(あい)づちを打ちながら、そんなビクニの言うことをただ(だま)って聞くのであった。


――女神が(たお)されてから数ヵ月後(すうかげつご)


ライト王国の復興(ふっこう)も進み、まだ簡易的(かんいてき)建物(たてもの)しかないが、以前の活気(かっき)を取り戻していた。


各国(かっこく)支援(しえん)してくれているのもあって、このままいけば近いうちに元の王国へと再起(さいき)できそうだ。


あの後――。


ラヴィはルバートと結婚し、ささやかな(しき)をあげた。


ソリテールは二人の養子(ようし)となり、今はイルソーレとラルーナも入れて五人で暮らしている。


リムは王国の復興が軌道(きどう)に乗り出してから、さらに魔法と武術を(みが)くために一人旅へ。


レヴィもドラゴンの目撃情報(もくげきじょうほう)を聞き、(いや)がるリョウタを連れて王国を()っていった。


皆、それぞれ別の道を歩き出していたのだ。


「お~い! ビクニ!」


(はら)っぱで横になっていたビクニのところへ、リンリが走って来る。


横になっているビクニの(そば)には、森の動物たちが集まっていて彼女に()りかかりながら気持ちよさそうに()()びていた。


「今日もサボったなッ!」


そして、近づいてきたリンリはいきなり跳躍(ちょうやく)――。


寝ているビクニの上にフライングボディアタックを仕掛(しか)けた。


ビクニの周りでゴロゴロしていた動物たちが、危険(きけん)察知(さっち)してか、素早(すばや)(はな)れていく。


そして空中から落ちてきたリンリの体が、(あわ)てているビクニを押し(つぶ)す。


ぐえッ! と押し(つぶ)されたビクニが(くる)しそうに声を(あら)げた。


「殺す気かッ!?」


「いや~ごめんごめん。避けると思ってさ」


「全くあんたは、相変(あいか)わらず手加減(てかげん)を知らないんだから」


それからリンリは(わる)びれることなく話を始めた。


それは、二人が(もと)の世界に戻るための方法(ほうほう)が、最果(さいは)ての大陸にあるというものだった。


数千年前に神が(ねむ)らせた古代(こだい)秘術(ひじゅつ)――異なる次元(じげん)への転移(てんい)儀式(ぎしき)のやり方だ。


なんでも海の国で(ふたた)宿屋(やどや)をやり始めた(ねこ)獣人(じゅうじん)トロイアが、(ほか)の大陸から来た(きゃく)に聞いたそうだ。


リンリはその手紙(てがみ)をビクニに突き付けてニヒヒと笑う。


「こりゃ行くっきゃないでしょ! いざ新たなる冒険(ぼうけん)へ、レッツでゴ―だよッ!」


右手を(かか)げて(さけ)ぶリンリ。


ビクニはため息をつくと、笑みを()かべる。


女神を(たお)してしまったことでもう(あきら)めていたが、まだまだ世界(せかい)は広い。


元の世界へ――家にいる祖母にまた会えるかもしれない。


それに、もしかしたら旅の途中(とちゅう)で、ソニックやググを生き返らせる方法も見つかるかもしれない。


魔法もあった、神も幻獣(げんじゅう)もいた、奇跡(きせき)も起きた――なんたってここはファンタジーの世界なのだ。


ビクニはそう思うと立ち上がる。


掲げているリンリの手を取る。


「よし、行こうッ! また冒険へ!」


「うん! 今度はあたしも一緒だよ!」


そして二人は空に見える太陽(たいよう)へ、意味もなく大声をぶつけるのだった。


できないことなど何もないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ