第二百九話 高速魔法
皆が必死になって女神からの攻撃を防いでいるとき――。
何者かが翼を広げ、巨大な女神へと向かっていた。
「あれは……ビクニかッ!?」
地上から見ていた者たちの中で――。
誰よりも先にラヴィが気が付いた。
ルバートはビクニの姿を見て涙を流す彼女を眺めると、大声で皆へ言う。
「全員、暗黒騎士を援護しろッ!」
その声を聞き、各自が巨大な女神の動きを止めようと動き出す。
守りに入っていた者たちが、自分たちにできる攻撃をそれぞれ始めていた。
「ビクニ……まだ戦うつもりなのか……?」
唖然とした表情で飛んでいくビクニを眺めているレヴィ。
そんな彼女へリョウタが声をかけた。
もう一度自分を抱えて空へ――女神のところまで飛べるかと。
レヴィは笑顔でコクッと頷くと、跳躍の体勢に入る。
リョウタは後ろからしがみつき、彼女が飛翔するの待った。
「ところでリョウタ。私にしがみついて戦うのは嫌がっていなかったか?」
「いいんだよ! カッコ悪くていい! それでみんなが助かるんならなッ!」
それを聞いたレヴィは、自分はそんな彼が好きなのだと、跳躍した。
――女神は向かってくるビクニに向かって光を放つ。
ビクニはそれでも避けながらも突進していたが、ついに無数の光が彼女の行く手を遮った。
だが、地上か突然閃光が放たれた。
続いて、一斉に発射された魔法や矢が女神の攻撃を止めようとしてくる。
「ビクニッ! 援護するのです!」
「こちらも少しは足止めしてみせるぞ!」
地上からリムやルバートたち皆と共に叫んでいた。
さらにそこへ――。
ビクニと地上いた者たちに気を取られている隙をつき、リンリが女神の眼前までたどり着いていた。
「くらえ、聖騎士パン~チッ!」
リンリが拳がその顔面を捉えたが、苛立った女神によって、彼女は叩き落とされてしまった。
落ちていくリンリへビクニが叫ぶ。
「リンリッ!?」
「あたしは大丈夫……だよ……。それよりもビクニ、決めちゃえぇぇぇッ!」
落ちていくリンリを心配したその一瞬――。
女神がビクニに向かって閃光を放つ。
これは避けきれないと彼女が思った瞬間――。
突然目の前にリョウタが現れた。
「一回やられて巨大化するようなテンプレボスなんかに、俺たちが負けるかよッ!」
リョウタはレヴィの跳躍によってここまで飛び、彼女に頼んで空中で放り投げてもらったのだ。
その目的はビクニの盾になることだ。
その目論見通り、リョウタはビクニを閃光から庇って落下していく。
「リョウタッ!?」
「やっちまえビクニッ! 俺たちを勝手にこの世界に連れてきた……メンヘラ女神をぶっ飛ばせッ!」
そして、ついにビクニは女神の眼前へとたどり着く。
女神は足元にいる者たちをすべて吹き飛ばすと、ビクニへ話しかけたきた。
自分を倒したらもう二度と元の世界へは戻れない。
それでもこの世界を救おうというのか。
訊ねられたビクニは、黙ったまま女神を睨みつける。
返事がないためか、女神はもう一度口を開いた。
この世界の者たちがどれだけ酷いことをしていたのかを、今まで旅を通して見てきたはずだ。
なりたい者になれず、求められる者へと強制される世界。
種族や階級の差別。
さらにそこから殺し合い――戦争まで起こし、すべて山、川、海、自然を――世界を破壊する。
「この世界の住民たちは、すべからず間違っているのよ。それでもあなたは私を止めるのかしら?」
「……そうかもしれない」
ビクニは女神を睨めつけながら返事をする。
「たしかに、あなたが言う通りのことを私は見てきたけど……。それでもそんなことない人たちもたくさん見てきたッ!」
ビクニはこれまで出会った者たちのことを話した。
ライト王国のことから愚者の大地までのことを――。
そこにいた素晴らしい者たちのことを。
「だから私はあなたを倒す……。そう……だって、ソニックと世界を守るって約束したんだからッ!」
ビクニがそう吠えたとき、女神は彼女へ攻撃を仕掛けた。
もう余裕がないのだろう。
会話で隙を作ろうとするなど、今までの女神からは想像ができないことだ。
ソニックの言っていた通り、先ほどのレヴィとリョウタの攻撃が効いているのだ。
「私は何があろうと世界を……この間違えた者たちを滅ぼす! あなたもここで死になさいッ!」
女神が勝ちを確信して声を張り上げた。
だが、その放った光を避け、自分に突進して来るものが見える。
「ファストドライブッ!」
それは、速度をあげる魔法を唱え、光を避けながら向かってきたビクニだった。
ビクニは高速で動きながら、女神の顔面へ自分の体ごと突っ込む。
「私が……神である私が……負けるなんて……うおぉぉぉッ!」
魔力を纏った彼女の体がその顔を貫く。
そして、穴がを開けられた女神は、この世のものとは思えない叫び声をあげながら、その光の身体を飛散させていった。
「ソニック……ググ……。私、やったよ……世界を守ったよ……」
力を使い果たしたビクニは、もうコウモリの翼を羽ばたかす力もなく、そのままグッタリとして地上へと落ちていくのであった。




