第二百六話 飛散した光り、喜びの声
女神はリム、リンリ、ソニック三人の攻撃を、魔法陣の障壁で押し返し始めていた。
徐々にだが、このままでは確実に女神の拘束が解けてしまう。
そうなれば飛びあがったレヴィとリョウタによる攻撃も無意味になる。
「マズいぞッ!? 女神が押し返してきてやがるッ!」
――ソニック。
「あらら、さすが神さま。ミッキー、ドナルド、グーフィーの三銃士なら勝てるはずだったんだけどなぁ」
――リンリ。
「堪えるのですよッ! ここでリムたちが頑張らないと世界が終わりますッ!」
――リム。
三人はさらに力を振り絞るが、もうすでに限界だった。
これ以上は力が上がらない。
魔力ももうすぐ尽き果てる。
女神が三人の力が限界だと確信した瞬間――。
「みんなッ! 諦めちゃダメだよッ!」
そこへ巨大化したググに乗ったビクニが大穴から現れた。
ググはビクニを乗せたまま宙を飛び、三人と女神ところまで向かってくる。
ビクニたちの姿を見て驚愕する三人だったが、すぐに笑みを浮かべ、押し返そうとする女神の障壁を押さえ込もうとする。
女神は思う。
バカな。
もう放っている魔力は限界だったはずだ。
それなのにたかが暗黒騎士の小娘と幻獣が現れただけで、どうして力が上がるのだと。
「くッ!? ふざけるのも大概にしなさい。あなたたちはもう終わっているのよ!」
だが、それでも女神は三人の魔力を押し返す。
さすがにもう無理だと思われた。
三人が限界を超えてもまだ女神のほうが力が上だ。
だが、上がってきたググが大きく口を広げ、女神に向かって黒い光を吐き出す。
それはビクニの魔力が注がれたググの攻撃だった。
女神はさらに障壁を強固にするが、さすがに四方向から攻撃には耐えきれず、空中で押さえつけられる。
「よし、今なのですよ! レヴィ! 決めてくださいッ!」
「ああ! あとは任されたッ! 私とリョウタの力を見せてやるぞ!」
リムが叫ぶ。
レヴィが降下しながら槍を下に構えて応える。
その槍――グングニルの刃には、リョウタの身体から移った魔力がさらに集まり出していた。
刃先の一点に凝縮された魔力が、真下にいる女神を頭上から狙う。
「これは予想外、予想外だわ!」
表情を歪めた女神は、周囲を守っていた無数の剣をすべてレヴィとリョウタへのいる真上へと飛ばす。
レヴィの体にしがみついているリョウタは、泣きそうな声で殺されると叫ぶが、それでも彼女は怯まない。
ここでやらなけらば――ここで自分が失敗したら世界が終わる。
皆が作ってくれた千載一遇ともいえるチャンス。
それを無数の刃が向かってくるくらいで無駄にできるかと、レヴィは咆哮する。
「これは私とリョウタ……いや、仲間たちすべての力だッ! 人間と亜人の力を味わえ女神ッ!」
そして、グングニルが女神の頭上へと突き刺さろうとしたとき――。
新しい魔法陣の障壁が現れ、彼女を守る。
しかし、ついには五方向からの攻撃にさらされた女神には、レヴィの槍を弾き返す力はなかった。
受け止めるのが精一杯という感じだ。
「いけぇぇぇッ! レヴィ―ッ!」
そしてリョウタの叫びと共に、女神は頭から身体を貫かれ、光の欠片となって飛散した。
すると、ここらの地面に現れていた魔法陣が消え、宝石となっていた者たちが元の姿へと戻っていく。
女神の魔法が解けたのだ。
さらには、ビクニの指輪の宝石からソリテールまでも元の身体へと戻る。
「ビクニお姉さん……あ、あたし……」
「ソリテール……。よかった、よかったよぉ……」
ビクニは泣きながらソリテールに抱きついた。
ソリテールも彼女と同じく泣きながら抱き返す。
そして、女神の身体が光となって飛散したことを、その場にいたすべての者が見ていたのだろう。
そこら中から歓喜の声があがっていた。
これで世界は救われたと、誰もが大喜びをしていた。
だが、そんな喜びも束の間――。
突然大地が激しく揺れ出し、凄まじい風が吹きつけ始めた。
「戯れは終わりよ……。今、すべてを無に帰す」
