表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/215

第二百四話 ソリテールの奇跡

その少女の声は(ねむ)っているビクニの意識(いしき)(かた)()けてくる。


ビクニはその声が誰であるのかに、すぐに気が付いた。


ライト王国の(そば)の森にあった名もなき村にいた少女――。


木の精霊(せいれい)ドリアードに宝石(ほうせき)へと変えられてしまったソリテールの声だ。


宝石となったソリテールは、ソニックが指輪(ゆびわ)にし、これまでの(たび)(あいだ)ビクニの指にずっと付けられていた。


女神が復活(ふっかつ)――儀式(ぎしき)により肉体(にくたい)()影響(えいきょう)か。


今まで話すことのなかったソリテールが声を(はっ)している。


「ビクニお姉さん……。ソニックお兄さんもググも(ほか)の人たちも……みんなみんな待ってるよ」


(やさ)しく(かた)()けてくるソリテール。


だが、ビクニからの返事(へんじ)はない。


それは、彼女にソリテールの声が聞こえていないからではない。


ソリテールはビクニの意識に直接(ちょくせつ)話しかけているのだから、聞こえていないはずがない。


ビクニはソリテールに声を聞きながら考えていた。


ライト王国から愚者(ぐしゃ)の大地までの旅で――。


自分は強くなったと思っていた。


たとえそれがソニックのよって与えられた吸血鬼族(きゅうけつきぞく)(ちから)であったとしてもだ。


(もと)の世界にいた(ころ)の――。


(いや)なことがあると()げ続けてきた自分よりも成長(せいちょう)していると思っていた。


だけど現実(げんじつ)(ちが)った。


いい気になってワルキューレに(いど)んだ結果(けっか)


彼女には簡単(かんたん)にあしらわれ。


そんな増長(ぞうちょう)のせいでソニックが(ひど)い目に()い、自分のことを(きら)っていたはずのヴァイブレは自分と彼を(まも)るために(いのち)を落とした。


そう――。


自分は強くなってなどいなかった。


今でも元の世界にいた、部屋に引きこもっているただの中学生だった。


暗黒騎士(あんこくきし)にされ、吸血鬼化したせいで(ひど)勘違(かんちが)いをしていたのだ。


その勘違いした小娘(こむすめ)のせいでヴァイブレは死に、すべての元凶(げんきょう)である女神さえ復活(ふっかつ)してしまった。


自分がリンリを(さが)しに行かなければ――いや、この世界に来なければよかったのだ。


自分さえ、自分さえいなければ――。


ビクニはそう思いながら、さらに(ふか)く意識の中へと閉じこもる。


そんなビクニにソリテールは言葉を続ける。


「お姉さん……あたしはずっと見てたよ」


ソリテールは指輪となってから、ずっと彼女たちと共に旅を見てきた。


武道家(ぶどうか)(さと)ストロンゲスト·ロードでのことや、海の国マリン·クルーシブルでのこと――。


これまでの旅で彼女がしてきたことを語り始める。


「お姉さんがいなかったら……きっとみんなダメになってたと思うの……」


もしビクニがいなかったら、リムもルバートも間違(まちが)いを(おか)していただろう。


死んでしまったヴァイブレだって吸血鬼族の騎士としての矜持(きょうじ)を取り戻せなかっただろうと。


ソリテールはあのときの――村で出会った頃と同じ(おだや)やかな声で、そのことをビクニへ(つた)えた。


「ソリテール……あなたを(すく)えなかった私は……。いろんな人に迷惑(めいわく)をかけた私は……また歩き出しても……いいのかな」


「そうだよビクニお姉さん。あたしもググもソニックのお兄さんも……。みんな、みんなみんなお姉さんのことを待ってるよ」


指輪から輝いていた光が、眠っているビクニの身体を(おお)っていく。


その(そば)でググが必死(ひっし)になって鳴いている。


ソリテールの言っていることが真実(しんじつ)なのだと一生懸命(いっしょうけんめい)伝えようとしている。


「だからお(ねが)い……。みんなと一緒(いっしょ)に世界を守って」


ソリテールの声と共にビクニの身体を覆っていた光は消え、彼女は立ち上がった。


「ごめんね、ググ……。いっぱい心配かけて……。でも、もう大丈夫、大丈夫だからね」


ビクニは立ち上がると、飛びかかってきたググの体を()でた。


ググはあまりの(うれ)しさのせいか、その目から(なみだ)(なが)している。


「さあ行こう! みんなのところへ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ