第百九十五話 吟遊騎士の武器
そして、女神を守るようの浮いていた無数の剣は払われ、ついにその体を捉える。
そのとき、ルバートの後方から彼を狙って剣が向かっていたが、イルソーレとラルーナによってすべて止められていた。
「音楽に愛……それに絆か……。あなた、大したロマンチシストね。それでいて剣技は天才的。その上高名な騎士なのだから神――すなわち私に感謝しないといけないわ」
「ああ、お前の言う通り、私は幸運な男……。それだけが取り柄の男だ」
斬りかかってくるルバートに対し――。
女神はその手から剣を出し、振り落とされた彼の剣を受け止める。
ガキンと鳴り響いた金属音が合図となり、そこからルバートと女神の打ち合いが始まった。
それは激しく、もしこの場でルバートを加勢できる者がいたとして、二人の戦いには入れはしなかっただろう。
もはや近寄るだけで吹き飛ばされてしまうほどの剣気が、ぶつかりあう二人からは発せられていた。
凄まじい攻防の中――。
ルバートはさらに剣速をあげるが。
女神は余裕でそれを捌き返してくる。
それどころか、次第にルバートの剣の速さを上回り出していた。
「所詮は人間ね。でも、私に直接剣を抜かせたのは自慢していいわ」
実に嬉しそうに言う女神。
この死闘も最初に彼女が言った戯れ――遊びなのだろう。
彼女は、まるで初めてうまく乗馬できた子どものようにはしゃいでいる。
ルバートは女神の剣を受けながら思う。
こんな細腕のどこに自分の剣を弾き返すほどの力があるのか。
触れただけで折れそうな足でどうしてそこまで速く動けるのか。
やはり神には勝てないのか――と。
そして、ついには使っていた剣まで折られてしまった。
「あの世で誇りなさい。自分の剣は神に剣を抜かせたとね」
剣を折られ、丸腰となったルバートへ女神が襲い掛かった瞬間――。
その短い間に、ルバートの頭の中ではこれまでの人生が、まるで劇場で行われる舞台劇のように流れていた。
幼い頃――自国での人間と亜人の仲の悪さに心を痛めていたこと――。
イルソーレとラルーナとの出会い――。
コルダスト家――ラヴィとの婚約をした後、彼女と決闘をしたこと――。
精霊に操られ、暗黒騎士の少女と吸血鬼の少年に救われたこと――。
そして、再び愛していたラヴィに会えたことが、彼の意識に映し出されていた。
(ラヴィ、すまない……)
彼が諦めそうになったとき――。
その映された過去から笛の音が聞こえてきた。
その音を聞き、ルバートは気が付く。
自分にはまだ戦える武器があったと。
「うおぉぉぉッ!」
「なに!? まだ剣を隠し持っていたのッ!?」
凄まじい速度で突かれた剣を振り払い、ルバートの武器――フルートが女神の体を貫いた。
