第二十話 吸血されてドキドキ
幻獣バグは、私を抱えたまま突っ込んで来るソニックを打ち落とそうと、象のように長い鼻を振り上げた。
それはまるで鞭のようにしなって、私たちに襲い掛かってくる。
それをギリギリで避けるソニックには、とても相手に近づく余裕はなさそうだった。
「ねえ、ソニック。なんでさっきみたいに速く動けないの!?」
「さっきかけた魔法、ファストドライブの効果が切れたんだよ」
「じゃあ、もう一度使えばいいじゃん。このままだとやられちゃうよ!」
「今の俺の魔力じゃ、たとえ夜になっても一回しか使えないんだよ」
抱えられながら喚く私へ、ソニックは不機嫌そうに説明をした。
私が、このままバグの長い鼻を避け続けるなんて無理だと叫ぶと――。
彼は、もう一度使用できる方法があると、バグの長い鼻を避けながら言葉を付け加えた。
「ちょっとだけ痛いが、我慢しろよ」
「えっ!? ソニックが魔法を使えるようになるのは嬉しいけど、痛いのは嫌だよ!?」
「ワガママを言うな! あいつの鼻に潰されるよりはマシだろ!」
ソニックはそう言うと、突然私の首に自分の尖った歯を当てた。
いきなり肌に口を付けられた私は、こんなときなのに、怖さとは別のドキドキを感じてしまう。
「すぐ済むからな」
「な、なな、何をする気!?」
私が戸惑っていることなどお構い無しに、ソニックはそのまま歯を突き立てた。
すると、自分の体から緩やかに力が抜けていく感覚に襲われる。
そう――。
ソニックは私の首から血を吸い始めたのだ。
……そうか、ソニックは吸血鬼だったよね。
でも、なんでこんなときに……?
速く動き過ぎてお腹がすいたのかな……?
次第に意識が朦朧としてくる。
でも、全然痛みはなくて、最初にチクッとしただけで、後は何か心地いいというか何というか……。
「よし! これでまたいける! もう一度いくぞ、ファストドライブ!」
ソニックが叫ぶと、さっきのように、もの凄いスピードで動けるようになった。
それから彼は、私を抱えたまま、鞭のようにしなる長い鼻の攻撃を避けて、バグの背後へと回り込む。
「おい動け、ビクニっ! 大した量は吸ってないんだ!」
「え……? でも、なんかフラフラするけど……」
そんな私を見たソニックが舌打ちをすると、突然私のことをバグの背中に向かって放り投げた。
「えぇ!? そんないきなり落とさないでよぉぉぉ!」
「行け! さっさとその黒い剣でやっちまえ!」
無惨にも投げ落とされた私だったけど、バグの熊のような胴体に何とかしがみ付くことに成功した。
黒い毛に白いメッシュが入ったような毛色のバクの背中は、思っていた以上にフサフサしていて気持ちよかった。
こんなときにだっていうのに私は、元の世界――実家の猫たちのことを思い出してしまう。
「みんな、元気にしているかな? ……うわっ!?」
私が背に乗ったことを嫌がるバクが、激しく身をよじらせて暴れ始める。
遊園地へ行ったことは生まれてから一度もないけど。
絶叫マシンってこんな感じ?
だったら私は絶対に好きになれない。
「何やってんだバカ! さっさとやれ!」
上空からソニックの声が聞こえる。
バクは身をよじらせながら、彼のことを叩き落とすことを諦めていなかった。
……そうだ。
早くバクを止めなきゃ。
「お願い! これで止まって!」
私はそう叫びながら、握っていた真っ黒な剣をバクの背中に突き刺した。




