第二話 召喚の祭壇で
「おお……大賢者様の言った通りだ!」
感嘆とする声に、私はハッと意識を取り戻した。
まだまだボヤけている視点を前に向けると、茶色いローブを着たおじさんたちが、何やら大喜びしている。
「おじさんたちダレ?」
声のするほうに目を向けると、そこには私の幼なじみである晴巻倫理がいた。
彼女は、首を傾げておじさんたちを、不思議そうに見ている。
どうやら、リンリもまだ状況が飲み込めていないみたい。
それは私も同じ、一体どうなっているの?
私、さっきまで自分のベットの上に居たはずなのに、なんで……というかここはドコなの?
ビクビクしながら辺りを見渡すと石造りの壁が目に入る。
レンガ調ってやつかな?
まるで、前にリンリに見せてもらった遊園地のパンフレットの中にあったお城みたいな感じ。
床を見ると蛍光塗料を塗られて作られたかのような――魔方陣的なものと、ロウソクやらなんやらよくわからないものがあった。
中世のヨーロッパ的な壁に、祭壇的な飾り……まさかここはファンタジーの世界……?
その祭壇の中心に、私とリンリは立たされていた。
「ねえ、ここはドコなんだよぉ?」
戸惑っている私を置いてきぼりにして、リンリはローブを着た男に訊ね続けた。
「異世界から現れた勇気ある少女たち、どうかこの世界をお救いください」
「はい?」
「えぇッ!?」
特に驚いていないリンリの横で、狼狽えまくっている私。
だって、いきなり世界をお救いくださいって、そんなのどう返事していいかわからないよ。
そういえばこんなセリフ、図書館で借りたライトノベルとかで読んだことがあるような気がするけど。
やっぱり私たちはファンタジーの世界に飛ばされちゃったの?
「別に救ってもいいけど、どういうことなの?」
リンリはこんなときで自分のペースを崩さない。
それにしても、そんな簡単に世界を救ってもいいなんて言うなよ……。
「長い話になりますが、理解できる言い方で説明しますと、お二人を大賢者様から教えられた儀式で召喚させていただきました」
「召喚……って、やっぱり……」
ローブを着たおじさんたちの説明を、完全に鵜のみにはできないけれども、この事態は、私が予想していた通りだった。
「ホントか!? スゴいぞビクニ! あたしたち召喚されちゃったぞ!」
この娘は何をそんなにはしゃぐのか、私は不安しか出てこない。
「世界は今、存亡の危機に立たされているのです。どうかお二人のお力をお貸しください」
ローブを着たおじさんたちが深々と私たちに頭を下げる。
お二人、お力、お貸しくださいって……丁寧な言葉なんだけど、なんかふざけて聞こえる、
「いいよ。私、体動かすの好きだし」
「何言ってるのリンリ!? 中学二年生の私たちに世界が救えるわけないじゃん! それよりも元の世界に帰る方法を訊かないとッ!」
「え~大丈夫だよ、ビクニ。世界を救うなんてワンパンだよ、ワンパン」
そう言いながら、何もない空中に向かってシュシュっとジャブを連打するリンリ。
アホか……ワンパンで世界が救えるのは漫画の世界だけだよ。
でも、実は私もウキウキしていたりして――。
落ち着いてきたせいか、この状況にワクワクしている自分がいた。
「では、まずは王様と謁見して頂き、それから大賢者様にも会ってもらいます。さらに詳しい話はそのときに聞けると思いますので」
ローブを着たおじさんの代表が、重苦しい扉を開けさせて、部屋から出るようにと頭を下げた。
「王様と賢者だって、なんか面白そう! よし行くよ、ビクニ!」
「ちょ、ちょっと!? 待ってよ、リンリ!?」
私は、置いて行かれないようにリンリの後を追うのだった。
それから私たちは、暗い部屋を抜けて石造りの廊下を進んでいく。
窓から見た光景は、どこまで広がる青い空、そして中世ヨーロッパのような町並みがそこにはあった。
「わあ~スゴいスゴい! ディズニーランドみたいだぁ!」
嬉しそうにはしゃぐリンリ。
私はディズニーランドに行ったことないけど、その気持ちはわかる。
だって、本当に美しい景色だったんだから。
キレイな町並みに長く目を向ける暇は無く、私たちは廊下を進み、王様がいる部屋へと到着した。
「待っていたぞ、異世界の少女たちよ……」
玉座に座る髭の長いお爺さんが、重々しい口調で、私たちにそう言った。