表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/215

第百九十二話 審美眼

リョウタの悪態(あくたい)を受け続けた女神は、面倒臭(めんどうくさ)そうな表情(ひょうじょう)で彼を見ていた。


そんなことを自分に言われてもといった顔で、組んでいた両腕(りょううで)(ほど)き、その腕を(こし)(まわ)して(くび)(かし)げている。


それから女神は、レヴィの身体を(たて)にしているリョウタへようやく口を開く。


「そうは言ってもあなたに(ふたた)(いのち)(あた)えてあげたのは私よ」


話し出した女神を見たリョウタは、その身をビクッと(ふる)わせるとさらにレヴィの(うし)ろへと(かく)れた。


そして、彼女の身体の隙間(すきま)から、こちらを見下ろしている女神をビクビクしながらも(にら)みつけている。


女神はそんなリョウタ姿(すがた)(あき)れながらも言葉を続けた。


(もと)世界で(くるま)が家に()()んできてリョウタは死んだ。


それをわざわざ復活(ふっかつ)させてあげたのに、(れい)こそいわれるべきなのに(うら)(ごと)をいわれても(こま)る。


――と、女神はうんざりした様子(ようす)でその白く長い手を()った。


だがリョウタは、女神の言葉を聞いて(はげ)しく(いか)り始めた。


眉間(みけん)(しわ)()せ、まるで(のろ)い殺してやるかと言わんばかりに全身(ぜんしん)を震わせている。


とはいっても、レヴィの後ろに隠れたままだが。


「うるさいッ! なにが礼を言えだ! そもそも約束(やくそく)(ちが)うだろうがッ! 俺は転生(てんせい)特典(とくてん)が付くって言うからお前の言う(とお)りしたんだぞ!」


そこから(ふたた)びリョウタの言葉による猛攻(もうこう)が始まった。


スエット姿で異世界(いせかい)(ほう)り出され、まず冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドへ向かって登録(とうろく)をしようととしたが、登録料が(はら)えず、当面(とうめん)の生活のために街で労働(ろうどう)をしたこと――。


冒険者の集団(しゅうだん)(かこ)まれていた女竜騎士(おんなりゅうきし)を助けようとしたら、何故か懸賞金(けんしょうきん)がかけられてお(たず)ね者になってしまったこと――。


その後は金なし、宿無しの野宿(のじゅく)放浪(ほうろう)生活に(くわ)え、おまけに命まで(ねら)われてしまうという逃亡(とうぼう)(たび)に出る羽目(はめ)に――。


「お前には俺を(しあわ)せにする責任(せきにん)義務(ぎむ)があったはずだ!」


世界を救うよりも自分を救ってほしかった。


――と、リョウタは女神に向かって(さけ)んだ。


その中で、誰よりも彼の言葉に喰いついた者がいた。


「な……なななッ!? なんということだ!? リョウタお前は!? 女神に(えら)ばれし者だったのか!?」


そう――。


リョウタの当てもない労働生活に終止符を打った人物であり――。


彼がお尋ね者となってしまった原因となった女性――。


共に逃亡の旅を続けていた竜騎士――レヴィ·コルダストだ。


レヴィは驚愕(きょうがく)しながらも何故か(うれ)しそうに声を()り上げている。


彼女は、リョウタを普通(ふつう)の人間ではないとは感づいていたが、まさか別の世界から転生した者だとは思わなかったのだ。


ようするにリョウタは(かく)でいえば、吸血鬼族(きゅうけつきぞく)()べるラヴブラッド王から世界を救った聖騎士(せいきし)リンリや――。


各国(かっこく)(あらわ)れた精霊(せいれい)幻獣(げんじゅう)退治(たいじ)して回った暗黒騎士(あんこくきし)ビクニと同格である。


その事実(じじつ)を知ったレヴィは、やはり自分の目に(くる)いはなかったと思い、(よろこ)びを隠せずにいるのだ。


「私の見込(みこ)んだ男が選ばれし者だったというこの事実……。それを知ってしまった私は……私は……ッ!」


レヴィ·コルダストは竜騎士である。


そのため、竜騎士のみが使う技術(ぎじゅつ)――飛翔(ひしょう)して(てき)頭上(ずじょう)から攻撃する能力(のうりょく)がある。


――のだが、彼女は着地(ちゃくち)がまともにできず、一度飛んでしまうと大体無様(ぶざま)(たお)れてしまうのだ。


リョウタが彼女と出会った(ころ)よりも、だいぶマシにはなったが、それでもまだ完全に着地に成功できる保証(ほしょう)ないのだが。


「この(むね)の高まりこそ……私の騎士としての潮騒(しおさい)だったのだなッ!」


「おいレヴィ!? こんなときにジャンプは止めろッ! お前が飛んだら誰が俺の盾になるんだよ!」


「止めるなリョウタ! 私のこの血が空を(もと)めているのだ!」


跳躍(ちょうやく)しようとするレヴィを必死(ひっし)に止めるリョウタ。


世界を(ほろ)ぼそうとしている女神を前にして、ずいぶんとふざけた態度(たいど)の二人だった。


「神をも(おそ)れぬとはまさにこのことだね」


それを見ていたルバートは(つぶや)くようにそう言うと、イルソーレとラルーナが歓喜(かんき)の声をあげて彼を()(たた)えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ