第百九十一話 もう一人の異世界人
ルバート、イルソーレ、ラルーナ三人を見下ろしながら――。
女神はつまらそうに宙に浮いていた。
両腕を組んで口をヘの字に結び、気合十分の三人とはずいぶんと対照的だ。
「うーん、あの小間使い娘には残っていてもらいたかたんだけどなぁ」
そして周囲に風を巻き起こしながら、ゆっくりとルバートたちがいる大地へと足を着ける。
その優雅な着地と比べ――。
女神が起こした風は、ルバートたち三人を後退させるほどの強さで吹かれていた。
「それにしても三人だけとはだらしない。これは遊びにもならないかもしれないわね」
女神がそう言ってため息をつくと――。
突然彼女に向かって一本の槍が飛んでくる。
だが、彼女の体から現れた魔法陣の障壁によって、その槍は簡単に弾かれてしまった。
「いや、五人だ。まだ私たちがいるぞ」
そこにはラヴィの妹である竜騎士レヴィ·コルダストが立っていた。
彼女は背負っていた自身の槍――グングニルを振り回すと女神に向けて突き出した。
「あら? あなたもいたのね。まだ生きていたんだ」
しかし女神はレヴィのことなど眼中になく。
彼女の陰に隠れている男――関·良太ことリョウタに声をかけた。
「てめえ女神ッ! 今さら出てきて世界を滅ぼすだと!? その前に俺にチート能力とハーレム生活と俺TUEEE体験をさせろッ!」
「そんな女の後ろで喚かれても聞こえないわ。言いたいことがあるのなら、ちゃんと前に出て話してちょうだい」
女神が呆れた様子で返事をしたが、リョウタは絶対にレヴィの後ろから前に出ては来なかった。
それどころかそのまま彼女の身体に身を隠しながら、女神に向かって罵詈雑言を吐き続けている。
「あいつにはプライドとかないのかよ……」
「ねえ、ルバートの兄貴。ハーレムはなんなくわかるんだけど。チートと俺TUEEEってなんですかね?」
そんな彼を見たイルソーレは、そのあまりの情けなさに呆れ――。
一方ラルーナは小首を傾げながら、ルバートへわからない単語の意味を訊いていた。
だが、ルバートは二人は別の反応を見せていた。
彼はクスリと笑みを浮かべると、あれは女神を油断させる作戦なのだと言う。
「今までのことを思い出してごらん。リョウタはいつだってどうやって相手に勝つかを考えている男だ。一見して女性を盾にする男の風上にも置けないようなことをしているが。あの人間の品性を疑う行動にも、きっと何か意味があるに違いない」
ルバートはリョウタのことを過剰評価していた。
しかしそれは彼だけではなく、ライト王やライト王国の住民たちもリョウタのことを頼りにしている。
それは、今までリョウタの活躍によって救われた場面が何度もあったからだった。
ちゃんとリョウタの実力をちゃんと知っている者は、ラヴィとリム、そして彼と共にずっと旅をしてきたレヴィだけである(それでもレヴィのリョウタへの評価は高いが)。
イルソーレとラルーナもリョウタの実力を疑ってはいたが、ルバートの言うことは容易く信じてしまっていた(いや、むしろ彼が言えば、それがたとえ間違っていても二人は肯定するだろうが)。
今も二人は「兄貴、さすがです!」と、早速ルバートを褒め称えている。
「でもそれじゃ、チートと俺TUEEEって?」
「う~ん、そうだな……。きっと神が持つ強大で神秘的な力か何かじゃないかな?」
「なるほど! ルバート兄貴、さすがです!」
恐ろしいのは――。
それほどルバートの見解が間違っていないことなのだが――。
たとえ本当の意味を知っても彼のリョウタに対する評価はあまり変わらないだろう。
「いいからさっさと俺に良い思いをさせろッ! この駄女神がッ! さもないとKADOKAWA二大駄女神にお前を加えて三大駄女神になるようネットに書き込んでやるぞ!」
ルバートがイルソーレとラルーナとそんな話をしている間も――。
リョウタはレヴィ陰に隠れながら悪態をつき続けるのだった。




