第百七十八話 優しくしてくれ
「姉さん!」
そこへ勢いよく現れたレヴィ。
その後ろからは、周りにいる灰色の兵たちに怯えているリョウタの姿もあった。
レヴィは泣いてる姉を見て、彼女を抱きしめた。
そして、怪我はないかと心配そうに声をかける。
「レヴィ……。ルバートから聞いたっすよ。本当に……あんたってすごい……」
「ううん……私はなにも……。みんな……みんなが同じ気持ちだったってだけなの……」
互いに抱きしめ合いながら、二人は言葉を交わす。
いつもなら男性のようなレヴィの言葉遣いも、今だけは年相応の女性らしいものになっていた。
「盛り上がっているとこ悪いんだけどさ……」
そんな仲睦まじい姉妹へ――。
場の空気を読まない言葉が発せられた。
「そんなことしてる場合じゃないだろ?」
「うッ!? うぅ……すまんリョウタ……」
レヴィはリョウタに謝ったが、姉のラヴィのほうは普段の彼女の目つきである半目を彼へと向けていた。
この男には、今の感動的な抱擁が理解できないのか?
目は口ほどに物を言うというが――。
ラヴィのリョウタへと向けられた視線は、まるでそう言っているようだった。
気を取り直したラヴィは、どうやってこの場所に自分たちがいることがわかったのかを訊ねた。
「それは彼、リョウタのおかげさ」
ルバートはそういうと、その場に片膝をついてラヴィの手を取った。
それから彼は彼女の手に唇を合わせると、剣を握って戦場へと走り出していく。
「やっぱりルバートとは絶対に仲良くなれない気がする……」
その様子を見たリョウタは、怪訝な顔をしながら、ルバートと自分は相容れぬと呟いていた。
彼が言いたいのは水と油――。
いや、単に息を吸うようにキザなことをするルバートが気に入らないのだろう。
ルバートのほうはそんなことないが。
リョウタのほうは、彼のことがあまり好きではなさそうだ。
「ああ、そうなんだ姉さん。リョウタがここから女神の気配がすると言ってな」
そんな彼のことなど気にせずに、レヴィがルバートが言っていたことの補足をし出す。
皆で戦うと決意をした後――。
海の国マリン·クルーシブルで敵軍を迎え撃つか、一先ず斥候を送り出すか話し合われていたとき。
リョウタは敵軍がライト王国に来ていると言い始めた。
最初こそ誰も信じなかったが、レヴィ、ルバートらの説得もあり、全員でライト王国へ向かうことになる。
だが、レヴィたちの言葉よりも――。
何よりもリョウタの意見が採用された一番の理由は――。
彼が女神から召喚された異世界人だと言ったからだった。
リョウタは自分でも何故かはわからないが、ライト王国に女神がいることがわかると言う。
それはきっとビクニやリンリ、そして自分のような女神に召喚された者だけがわかるものなのではないかと、皆に説明した。
それを聞いた者すべてが、リョウタのことを勇者だと勘違いし始めた。
無理もない。
彼と同じように召喚された者――。
聖騎士リンリは世界を平和にし――。
暗黒騎士ビクニは、各国にいた精霊や怪物を退治したのだ。
当然同じ世界から来ただろうリョウタも彼女たちと同等の力があると思われてもしょうがない。
「へぇ、少しは役に立つすね」
「……ラヴィ姉さん。もうちょっと俺に優しくできないかなぁ……」
その話を聞いたラヴィは、そのまま半目で彼を見るだけだった。
ラヴィは彼が異世界から召喚されたと聞いても、あまりにも無反応で普段と変わらず冷たい。
リョウタは、武道家の少女リムも、きっとラヴィと同じ反応をするのだろうなと、遠い目をしていた。
「よし! じゃあ行くぞ姉さん! リョウタ!」
「ちょっと待てってレヴィ!? 俺は後方支援に徹するって言っただろう!?」
レヴィはリョウタの首根っこを掴んで、勢いよく敵へと向かって行く。
リョウタは必死で彼女の手を振りほどこうともがいているが、いかんせん腕力の差があり過ぎて逃れることができない。
「いいから来い。あんたもうちとレヴィの盾くらいにはなれる」
「ヤダだぁぁぁ! 俺はタンク役はゲームでもやったことないんだよぉぉぉ!」
「意味のわからんこと言ってんじゃないっすよ」
「誰か助けてくれぇぇぇ!」
それからラヴィ、レヴィのコルダスト姉妹と、嫌がっていたリョウタも灰色の兵たちとの戦闘に参加するのであった。




