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第十八話 願望

私とソニックは大きな破壊音(はかいおん)のするほうへと向かい、みんながいる場所へと()けつけた。


城の出入り口である城門と(やぐら)が、すでにボロボロに破壊されている。


そこには、バクを止めようと向かっていたのだろう兵士や宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)たちが(たお)れていた。


「みんなっ!? ねえ、大丈夫!? 生きているよね、生きているよねっ!」


私は兵士や宮廷魔術師たちに駆け寄って、うるさいくらいの大声を出した。


その声に反応してくれたのか、兵士と宮廷魔術師たちが(うめ)き出したので、私はみんなが生きていてくれてよかったと、ホッと胸を()で下ろす。


「ビクニ!? 何故ここへ来た!? お前は早く逃げなさい!」


私に気がついたライト王。


(ひざ)から(くず)れ、(にぎ)っている剣を(ささ)えにしてなんとか立っているといった状態(じょうたい)だった。


「私も……私もみんなと戦うよ」


「何を言っておるのだ。ここでお前が死んでしまったら、わしはリンリにどんな顔で会えばいいと思う? さあ、早くこの場から――」


「もう(いや)なの! 目の前で人が死ぬのはもう嫌っ!」


私はライト王の言葉を(さえぎ)って続ける。


「ソニックが勇気をくれたの……だから、だから私もみんなとバグを止める。いや、誰も犠牲(ぎせい)にならないように止めてみせる」


「ビクニ……うぅ……」


ライト王は静かに泣き始めた。


それは他の気がついていた兵士たちも同じで、みんな涙を流し始めていた。


それを見た私も、さっき泣き止んだばかりだったのに、また目頭(めがしら)が熱くなってしまう。


「おい、そんなのは後にしろ。あっちがヤバい」


ソニックがいう方向――バグが(あば)れているほうへ顔を向けると――。


「うおぉぉぉっ!」


ラビィ姉がたった一人で、巨大な体をしたバクに()りかかっていた。


(はげ)しく息切れをし、あの可愛(かわい)らしかったメイド服がズタズタに切り()かれ、その隙間(すきま)から見える(きず)はかなり深そうだった。


そして、白と黒であしらったメイド服が真っ赤になるほど、全身から血が流れていた。


だけどラビィ姉は、それでもけして戦意(せんい)(うしな)っていなかった。


「もう……それ以上戦わないでっ! それ以上戦ったら……ラビィ姉が……ラビィ姉が死んじゃうよっ!」


私の(さけ)び声が聞こえたのか、ラビィ姉がこっちに目を向ける。


だけど、すぐにまたバグへと飛び込んでいった。


その姿を見たライト王は、支えにしていた剣を(かま)えて、ラビィ姉の元へ行こうとしたけど。


すでに限界(げんかい)が来ているのか、手足が(ふる)えてその場に立っているのがやっとのようだった。


「っく!? 情けない……メイド一人守れんとは……力の無き王などこの世界では無意味な存在(そんざい)だ……」


自分の無力さを(なげ)いているお爺ちゃん。


私はそんなライト王の姿を見て(たま)らなくっていた。


「大丈夫! 私が、私がなんとかするから!」


私はライト王や兵士、宮廷魔術師たちにそう叫ぶと、腕に付けた魔道具(まどうぐ)()れた。


……教えてください、女神様。


どうすれば、あのときのリンリみたいな力を使えるの……。


私は(ねが)った、(すが)りついた。


もうこの魔道具に(たよ)る以外に方法はない。


真っ黒で、禍々(まがまが)しくて、全然可愛くなくて、中二病(ちゅうにびょう)の男子ががつけていそうで好きじゃないけど、これしかみんなを(すく)える手段(しゅだん)はないんだ。


「ちっ!? あのメイドヤバいぞ!」


私の(となり)にいたソニックが大声をあげた。


その声を聞いた私がラビィ姉のほうを見ると、彼女はもう(こし)から地面に倒れて(かべ)に寄りかかっていた。


「やだ、ラビィ姉!? 逃げて、お願いだから逃げてよぉぉぉ!」


私の悲鳴のような願いと共に、バグがラビィ姉の上からその(ぞう)のような長い(はな)を振り落とした瞬間(しゅんかん)――。


「ファストドライブ!」


そう叫んだソニックが、いつの()にかラビィ姉を(かか)えて空に()かんでいる。


コウモリのような黒い(つばさ)をバサバサと()ばたかせて空中に(のが)れていた。


どうやら一瞬のうちに移動(いどう)して、さっきの一撃から彼女を助けてくれたみたい。


「っく!? お前……何故うちを助けたっすか……?」


「そんなこと言っている場合じゃないだろ!? とりあえずあいつから(はな)れるぞ!」


そして、ラビィ姉を重たそうに運ぶソニックは、さっきほどじゃないけど、(すご)いスピードで私たちのところへ(もど)って来る。


「ラビィ姉! よかった、生きていてくれてよかったよぉ……」


「ビクニまで……なんでここへ来たんっすか……」


ラビィ姉は私がこの場にいることに(おどろ)きながらも、血を流し過ぎたせいなのか、その場で気絶(きぜつ)してしてしまった。


私はすぐに宮廷魔術師たちにお願いして、回復させる魔法があるのならかけてあげてほしいと声をかける。


「ねえ、ラビィ姉は大丈夫かな?」


私の質問に宮廷魔術師たちはコクッと(うなづ)いた。


そして、私はラビィ姉をみんなに(まか)せてソニックの前に立つ。


「ありがとう、ソニック。あなたのおかげでラビィ姉が助かったよ」


(れい)なんか後でいい。それよりもあれ……バグはどうすんだよ?」


ソニックにそう訊かれた私は、城を出て街へと向かおうとするバグの後を追いかけた。


まったく無策(むさく)だろう私の背中で、ソニックのため息が聞こえる。


「一人で行くんじゃねえよ」


そんな私を後ろから持ち上げたソニックは、そのままスピードを上げて上昇。


私は生まれて初めて空を飛んだ。


こんなときに不謹慎(ふきんしん)だけど、すごいドキドキした。


「ソニックってそんな力があったんだ」


「今はもう夜だからな。本来の魔力さえ戻っていればあんなバグくらい簡単に(つぶ)せるのに。今はそれができない。くそっ!」


どうやらソニックは、夜になると魔法が使えるようになるみたいだった。


さすが吸血鬼族といったところかな。


それにしても本来の魔力って?


「ほら、もう到着(とうちゃく)するぞ」


そして、一気にバグのところまでたどり着いた。


私を空中で抱えたまま、ソニックはバグと向かい合う。


「お前の好きにやってみろ! どっちにしろここでこいつを止めないと、俺もお前もこの国の奴ら全員殺されちまう」


ソニックがまた私に発破(はっぱ)をかけてくれている。


そのファストなんたらっていう魔法を使えば、一人で簡単に逃げられるというの……。


私を守るって約束を……守っていてくれているんだ……。


……私……みんなを守りたい。


ライト王もラビィ姉も。


兵士たちや王宮のみんなも街の人たちも。


そして、自分の(いのち)()けて私をここまで連れて来てくれたソニックを守りたい。


「えっ!? な、なんなの? 腕輪(うでわ)が急に?」


私がそう願うと、魔道具が突然(かがや)き始めた。

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