第百七十四話 報復
吹き飛ばされたソニックは、すぐにコウモリの翼を広げて宙で体勢を立て直した。
そこで彼が目にしたものは――。
噴水から出る水が光を放ち、リンリの髪飾りとビクニの持つ腕輪が剣へと変化していく光景だった。
リンリのぶ厚く大きい聖剣と、同じように巨大なビクニの暗黒剣が、噴水の周囲を回り始めている。
そのとき、ソニックが身体が幼い少年の姿から、凛々しい青年の姿へと変化していった。
いつもならビクニの血を吸わないと変身することができない姿だ。
どうやら女神復活の儀式の影響で、神殿周りの魔力が散らされ、ソニックにかけられていた呪いが解けたようだ。
「こいつはマズい……。マズいぞ」
だがソニックは、血の力なしで本来の姿に戻れたというに喜んでおらず。
反対にその表情を歪めていた。
何故ならば、その噴水の周りを回っている聖剣と魔剣は、元の姿に戻ったソニックの魔力を遥かに超えているからだ。
しかし、今ならまだ間に合う。
女神が完全に復活する前に神殿――。
中心にある噴水を破壊すれば、阻止はできずともその力を不完全なものにできるかもしれない。
不幸中の幸いか、戦える姿にも戻れている。
やるなら今しかない。
そして、神殿の中心へと、ソニックは再び飛び込んでいく。
全身に流れる魔力を右の拳に集め、二本の剣が回っている噴水に狙いをつける。
だが、そんな彼の前に聖騎士リンリが立ちはだかる。
「邪魔すんじゃねえ! 今はてめえに構ってる場合じゃねえんだよ!」
「次の指示へ移行。目標は神殿に近づく者……」
ソニックと同じように、拳に集めた魔力を放っていくリンリ。
そして二人の拳がぶつかり合い、その衝撃と光がこの地下洞窟内を覆い尽くす。
「魔力が戻れば属性なんて関係ねえ。力押しでやってやる」
「……吸血鬼の魔力が以前よりも上がっている。だが、それでも対応できないレベルではない」
ソニックの黒い魔力の光とビクニの白い魔力の光が、グラデーションのように混じり合っていく。
強固な柱はその飛散された魔力によって破壊され、二人の戦いの影響で神殿も崩れ出していた。
魔力をぶつけながらソニックは思い出していた。
選択の祠へと道中で、ラヴィから言われていたことを――。
「おそらくリンリを操っている魔法は直に解けるっすよ」
彼女――ラヴィの予想では、リンリを人形のようにしていたのは、大賢者メルヘン·グースなのだという。
実際にリンリは、メルヘンと共に旅に出てから消息不明になった(元々ビクニが旅に出た理由は、帰って来ない彼女を探すためだ)。
何よりもメルヘンは女神に魂を売り渡し、不死者となった自分たちの敵だったのだ。
大賢者と呼ばれるだけあって、メルヘンの持つ魔力は神に匹敵するほどのもの。
きっとメルヘンが女神に代わり、多くのことをコントロールしていた可能性は高い。
だが、メルヘンはすでに倒された。
だからその魔法は解けると――。
それがラヴィの考えだった。
「でも、あんたはリンリに国を滅ぼされているんすよね……」
「なにが言いてぇんだ?」
「うちから言えることは……いや、これはお願いっすね。リンリを……彼女を助けてあげてほしい……」
そんなラヴィの願いに――。
ソニックは何も答えることはできなかった。
今の彼――本来の姿を取り戻したソニックならば、たとえメルヘンが生きていてもリンリにかけられた魔法を解くことは可能だ。
だが、たとえ女神の操り人形とはいえ、この目の前にいる聖騎士の少女は仇なのだ。
ソニックの頭の中では、国への想いとラヴィの言葉――それにビクニのことが混ざりながら回り続けていた。




